弁当をきれいに平らげて、森村は新しいオレンジ色のマグカップでお茶を飲む。
「俺もってことは、鈴木さんも苦労された?」
すぐに察して聞き返した森村に、鈴木さんはフフフッと笑う。
「そうね、この会社の人たちはいろいろあった人が多いわね。でも、森村くん、こんないい子に育って、亡くなったお母様も喜んでらっしゃるわ」
やっぱ鈴木さんにしたら、森村なんか、いい子っていっちゃうくらいな感覚なんだよな。
良太は最後のご飯を飲み込みながら、一人頷く。
「え、でも、俺、そんなにいい子ってわけじゃないですよ」
森村は小首を傾げる。
「あら、良太ちゃんがこの会社に連れてきたんだもの、いい子に決まってるわ」
「えっ、何気にそれ、俺の責任が重い気がするんですけど」
良太は鈴木さんの発言にささやかに反論する。
「あら、いまさらでしょ? 良太ちゃんがうんと言わなきゃ、工藤さんもGOサイン出さないでしょ」
にこにことさり気なく言われて、良太は心の中で、ナニソレ? と自問する。
「え、良太さんて、そんな重要なポジションなんだ?」
またしても森村が素直に受け取っている。
「そうね、うちの司令塔なのよ」
「ちょ、鈴木さん、それ、いくら何でも盛り過ぎですって!」
良太は慌てて否定する。
「あら、ほんとよ。他の社員さんに聞いてみて?」
「そうなんだ」
森村が大きく頷いた。
「こら、モリーが下手したら俺の責任ってことだからな?」
「わかりましたっ!」
元気よく返事をすると、森村はお茶を取りにキッチンに向かう。
温かいオフィスの午後、森村のためのささやかな歓迎ランチの時間が過ぎていく。
賑やかな来客が和やかなひとときに割り込んだのはしばらくしてからだ。
「東京、何でこんな寒いんだよ」
文句とともに大柄な面々が入ってきた。
「来るなり文句かよ、沢村。お帰りなさい。どうでした? 撮影の方」
良太は立ち上がって沢村、佐々木、藤堂の三人を出迎えた。
「もちろん、未だかつてない画期的なものになること請け合いだよ。これ、我々からのお土産だよ」
「ありがとうございます」
袋一杯のお土産を受け取った良太にも、藤堂のいつも以上に明るい表情から充実した内容だったことは窺えた。
プロ野球関西タイガースの人気スラッガー沢村智弘を起用した東洋グループのCM制作で、沢村のスケジュールの都合もあり、フィレンツェ、ニューヨーク、ナイロビを駆け足で撮影を敢行、全ての行程を終えて午前中に成田に着いたという。
窓際のソファに陣取った面々にお茶を運んできたのは森村だ。
「おや、まさか、ついに新入社員さん?」
藤堂が大仰に驚いてみせる。
「まあ、一応、他にもいろいろ仕事があって、バイトなんですけど、森村くんです。こちら、代理店プラグインの藤堂さん、クリエイターの佐々木さん、それから関西タイガースの沢村」
良太が一通り紹介すると、「よろしくおねがいします!」と森村はまた九十度のお辞儀をした。
「元気ええね」
佐々木がほほ笑んだ。
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