春立つ風に185

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 相変わらず麗しい佐々木の表情もこの上なくいい感じだと、良太は思う。
「お前、何か武道かなんかやってるだろ?」
 その時沢村が森村にすかさず尋ねた。
「え、すご、わかります? ってか、あの、関西タイガースの沢村さん? 京都じゃ超人気有名選手でしたよ!」
 ちょっと興奮気味に森村が言った。
「あ、モリー、日比野さんとこのADやってて、京都の撮影終わってバイト探してるっていうんで来てもらったんです」
「ああ、なるほど、かけもちだからバイトなんだ。将来はやっぱり映像制作やりたいのかな?」
 良太の説明に藤堂が頷いた。
「あ、まあ、大学ではそっちかじってましたけど、まだ全然ぺーぺーで」
 森村がへへへと笑う。
「何だよ、やっと良太にも弟子ができたと思ったのによ」
 出されたチーズケーキを半分ほど一気に食べた沢村がニヤニヤ笑う。
「うっさいよ、沢村。人にはいろいろと事情ってもんがあんだよ」
 ムッとして良太が言い返す。
「そうだ、CMの撮影で、佐々木さんたちニューヨークも行ってきたんだよ」
 良太は森村を振り返った。
「そうなんですか? 俺、数か月前までニューヨークに住んでたんです」
「そうなの? ADになるためにわざわざ、日本に戻ってきたの?」
 藤堂は不思議そうに聞いた。
「あ、戻ってきたんじゃなくて、モリー、国籍はアメリカで日系三世なんですよ」
 良太が説明すると、「ええ? じゃあルーツを探しにとか?」と藤堂が言った。
「あ、ルーツ探し、それやってみたい! 俺の先祖ってどっかにいますよね」
 目を輝かせた森村は子供のような表情をしている。
「全然わからないの? おじいさんの家とか」
「全然」
 森村はフルフルと首を横に振る。
「ご家族はニューヨークにいるの?」
 藤堂は突っ込んで聞く。
「いえ、東京にいる養父がこっちに呼んでくれたんですけど、いつまでも親がかりじゃいられないので、部屋を借りてADの仕事を紹介してもらったんです」
「えらいなあ、いつまでも親の家に居座っとる俺には耳が痛いわ」
 佐々木が感心して微笑んだ。
「佐々木さんはいいんだよ、お母さんがいるんだし」
 そんな佐々木に沢村が断言する。
 すると森村が「あのー」とその佐々木をまじまじと見つめた。
「クリエイター? モデルさんとかじゃないんですか? ってか、男性なんですか?」
 途端、沢村が険しい表情になる。
「お前、失礼なんだよ」
「かまへんて。今に始まったことやないし」
 佐々木は沢村を軽くにらむ。
「まあ、いずれにしろ、良太ちゃん、弟分ができてよかったよね」
 藤堂が剣呑な目つきの沢村を遮るように笑った。
 と、その時、オフィスのドアが開いた。
「あ、お帰りなさい」
 入ってきた工藤に良太が立ち上がった。
 森村も元気な声で「お帰りなさい」と出迎える。
 今日のところはまあまあ穏やかそうだと良太は工藤の表情から見て取った。 

 


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