春立つ風に188

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「バイトですけど、森村繁久くんです。こちら俳優の中川アスカさん、マネージャーの秋山さん」
 良太は二人に森村を紹介した。
「よかったじゃない、良太! バイトでも何でもやっと子分ができて!」
 アスカは満面の笑みで良太を振り返った。
 みんな勝手なこと言いやがって、と良太は苦笑する。
「あ、それで、今夜、森村くんの歓迎会と、佐々木さんらの打ち上げを兼ねて……」
「え、行く行く!」
 アスカは良太の説明を最後まで聞かないうちに意思表明する。
「秋山さんももちろんね?」
 アスカに当然のように促されて秋山も頷いた。
「珍しく工藤さんが言い出したから、気が変わらないうちに予約しちゃいます」
 秋山にこそっと言うと良太は『灯』に人数の訂正を連絡した。
 その時電話が鳴って、鈴木さんが取った。
「良太ちゃん、MEC電機の波多野さんからお電話です」
 良太はつい工藤を見たが、工藤は別の電話に出ている。
 何だろうと思いつつも電話に出る。
 波多野からの電話など、あまり歓迎しないものばかりだからだ。
「お電話変わりました。広瀬です」
「仕事とは関係ありませんが、繁久のこと有難うございます」
 ちょうど工藤が電話を終えたのが見えた。
「あ、いいえ、よくやってくれてます。工藤に代わりますか?」
「繁久をよろしくお願いします。工藤さん珍しく会社におられるんですね。代わっていただけますか?」
 良太は電話を保留にして、工藤に波多野の電話を取り次いだ。
 工藤はちょっと良太を見たが、すぐに電話を取った。
「あの」
 森村が何か言いたげな顔をしている。
「モリーのことよろしくって」
「え、ほんとに?」
 目線の先に藤堂がいたので、「そうそう、森村くん、MEC電機の波多野さんの息子さんなんです」と良太は説明した。
「え、そうなの?」
「あ、波多野ご存じなんですか? 俺、養子で、夏に日本に呼んでくれたんです」
 森村はにこにこと話す。
「ってことは、波多野さんもアメリカ国籍なんだ?」
「はい」
「森村くん、アメリカ人なの?」
 アスカが口を挟んだ。
「アスカさんも日本人じゃないですよね?」
「あたしは日本人だけど、親がフランスとかいろいろ混じってるの。あ、そういえば奈々がモリーってADさんが可愛いって言ってたけど」
「あ、ずっと京都の撮影でADやってたんです」
「なんだ、モリーって君のことか」
 アスカとのやり取りを見て、森村はすぐに誰とでも打ち解けるやつだ、と良太は微笑ましく思う。
 と、そうこうしているうちに工藤がコートとブリーフケースを手にデスクを立った。
「東洋商事、行ってくる」
「あ、『灯』七時ですからね!」
 良太は工藤の背中に声を張り上げた。
 聞こえたはずだが、果たしてちゃんと顔を出すだろうか、と疑いの眼差しを向ける。
 工藤があえて座敷などでの宴会を好まないのをわかっているので、テーブル席の店を選んだのだ。
 そんな良太の中の工藤シフトを、少しはわかれよな、と良太は心の中でぼやく。
 
 


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