春立つ風に192

back  next  top  Novels


「野球部でお前も鍛えられただろ」
 すると良太は、「いやあ、うちは、何せ、野球部に入るなんてそれだけで重宝されたからなあ」と小首を傾げる。
「ったく、弱小野球部はこれだからな」
「るせえよ。リーグで戦うことに意義があるんだ」
「戦うって、お前、七、三で俺に打たれてたくせに」
 フンと鼻で笑ってたまたま向かい合わせに座った沢村は良太を小ばかにする。
「俺は直球に命かけてたんだよっ!」
「なこと言ってっから、甲子園も逃したんだろうが」
「まあまあ、キッズ時代からの因縁のライバルなんだよな?」
 このやり取りに呆れて物申したのは藤堂だ。
「ライバルってとこまで行ってればね」
 沢村がまたせせら笑う。
「沢村っちは啓應大付属高校で甲子園春夏二回行ったんだよね? 二年の春と三年の夏? 夏はベストフォーまで行ったんだけど、逆転されて残念だったよね」
 直子がしゃぶしゃぶをペロリと食べてから説明した。
「よく知ってるね、直ちゃん」
 藤堂が感心する。
「良太ちゃんはどこだっけ? 高校」
「川崎第一高なんざ、二年の夏にようやく地区大会までこぎつけたのに、サッサと敗退」
 藤堂の問いには沢村が答える。
「へえ、川崎第一高校? 川崎だったっけ? 出身」
「ええ、まあ、うちの高校は三流の進学校ですが、昔は甲子園までこぎつけたこともあったみたいですけどね」
 川崎第一高校の名前を沢村や藤堂に口にされて、良太はちょっとばかり焦る。
 実は高二の秋、地区大会に備えて放課後練習していた時、何と、ロケで高校の隣までやってきた工藤とニアミスしていたことが判明したのだ。
 だが、工藤も覚えていないらしいし、良太も誰にも言っていない。
 何だか、そんなことで運命の出会いとか何とか考えたりするのは冗談じゃないと思うからだ。
 チラリと工藤を見ると、たまたま顔を上げた工藤と目が合ったが、良太はそそくさと視線を外す。
「あ、ねえ、良太、そういえばさ、小笠原って美亜と付き合ってるってほんと?」
 アスカが急に良太に振った。
「ええ、まあ」
「何よ、よかったじゃない、彼女欲しい欲しいって言ってた小笠原にやっと彼女できてさ」
「ええ、まあ。あの、真面目なお付き合いだってことで、温かく見守ってやってくださいよ、アスカさんも」
「やあね、まるで私が小笠原をからかったりするみたいにモリーに思われちゃうじゃない」
「あとの面々はロケとか? 小笠原くんは今日は?」
 絶妙なタイミングで藤堂が言った。
「来年のドラマが決まったので、今日は顔合わせに行ってます」
 良太が答えると、「そうか、でも青山プロダクションは皆さんアットホームな雰囲気だから、森村くんもすぐに馴染むよ」と藤堂がいつの間にか話を摺り替えた。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます