春立つ風に193

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「はい、よろしくお願いします」
 森村はハキハキと返事した。
 誘った手前、隣合わせになった鈴木さんが退屈しないようにと思ってだろう、工藤は言葉少なにだが、最近息子さんや娘さんはどうだなどと声をかけ、鈴木さんも工藤の気遣いがわかるので、にこやかに答えている。
「息子は最近お付き合いをしている方がいるみたいで、今度紹介するって言ってますの」
 ホホホと品よく笑いながらも鈴木さんは嬉しそうだ。
「それはよかった。鈴木さんにうちに来ていただいてからそろそろ十年程にもなるから、息子さんや娘さんがそういう年になってもおかしくないですね」
「もうそんなになりますのね。万里子さんがオフィスに来て、事務員のふりで電話を取って下さってたのが懐かしいですわ」
 鈴木さんのそんな話を聞きつけて、「え、万里子さん、オフィスで事務員してたんですか?」と直子が口を挟む。
「フフ、私が入る頃のことよ。工藤さんお一人であれもこれもってやってらしたから、平造さんがたまにオフィスで詰めてくださったり、誰もいない時なんか万里子さんが電話番みたいにやってくだすってたの。万里子さんとは誰も気づかなかったみたい」
「鈴木さんが入って下さったから、てんてこ舞いのオフィスも落ち着いたのよね」
 アスカが鈴木さんに追随した。
「あ、小野万里子さん、元々うちの所属俳優だったんだけど、あまりに工藤さんが大変だからって、当時、独立したのよね」
 森村に、アスカが説明した。
「小野万里子さん」
 森村は復唱するように言った。
「あ、そのダンナがうちの嘱託カメラマンで井上っていうの、そのうち会うと思うけど」
「井上さんと万里子さんは夫婦、なんですね」
「そうそう」
 森村が真剣にアスカの言葉を聞いているところへ、「それでお前、ずっと青山プロダクションで働くつもりか? 日本にいつまでいるとか決めてないのか?」と沢村がサクッと尋ねた。
「波多野が、父が、日本が居心地いいのならずっと日本にいていいって言ってくれてますし、青山プロダクションはクビにならない限り、仕事させていただくつもりです」
 姿勢を正して森村が言うのに、「でも、日比野さんの仕事優先なんだろ?」と良太も聞いた。
「日比野さんは、ADやりたければやってくれればありがたいが、青山プロダクションの仕事がいいなら、そっちメインでいいって先日言ってくださったので」
 そうなんだ、と良太は改めて納得する。
「いずれにせよ、しばらく仕事見たりやったりしてみて、モリーが決めたらいいよ」
「せっかくできた弟分だし、ホントはこっち優先がいいよな、良太」
 一応、森村の考えを優先させようと良太が言うのを、沢村が上げ足を取る。
「だから沢村、うっさいよ」
 良太は沢村をちょっと睨む。
「ねえねえ、佐々木ちゃん、今年のスキー合宿、どうするの?」
 沢村の左隣のアスカが、沢村を通り越してその右隣の佐々木に聞いた。

 


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