春立つ風に195

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「あたし、でも、工藤さんの別荘も好きだわ。工藤さんのお祖父様が建てられたそのまま残ってて、家具とかもすごい古いけど重厚な雰囲気なの。ヨーロッパの古いホテルみたいで、カップル向けって感じよね」
 いきなりのアスカの発言に、良太は飲んだビールが喉につかえそうになった。
「そういえば、あそこの絵画もお祖父様が? ロートレックとかルドンとかあったわよね? 工藤さん」
「ああ、じいさんが好きだったんだろ」
 工藤は事も無げに言う。
「ロートレック、ルドンなんて、画商がみたら垂涎物の絵がひっそりとあるから驚きましたよ。下世話な話、あれだけですごい財産です」
 秋山も頷いた。
「それはまた是非拝見したいですね。画商とは言わないが、私もかなり絵には詳しいしこだわりがありますからね」
 藤堂が身を乗り出すように言った。
「俺も、是非見せてもらいたいです」
 佐々木もまた興味津々の表情で言った。
「いつでもどうぞ」
 こと、佐々木に対しては、工藤は非常に丁寧で優しい。
「ロートレック? ルドン?」
 ポケッとした顔で口にした良太が小首を傾げる。
 するとアスカが「絵が飾ってあったの知ってるでしょ? 良太、しょっちゅう工藤さんと行ってるのに」などと聞いてくる。
 ちょ、アスカさん、やめてくれ、それじゃまるきり俺と工藤がそうみたいじゃん。
「い…え、俺、芸術にはてんでうとくて、ほら、カミーユ・クローデルが彫刻家で故人だってこともつい最近知ったくらいだから」
 ハハハ、と良太は必至で話を逸らせようとする。
 こんなところで森村に知られるのはちょっと御免被りたい。
「やだ、絵があちこちに飾ってあったでしょ? ちょっとは覚えときなさいよ」
「ハハ、何か、ツンツンした絵ならあった気がするけど………」
 良太がボソリと言うと、「え、ビュッフェもあるんですか?」と佐々木が工藤に聞いた。
「ビュッフェ? あったっけ? あたし見たことないけど。リトグラフ? 油彩?」
「ああ、油彩だ。奥の部屋にある」
 工藤の言葉を聞いた時、良太はぎええ、と心の中で慌てふためいた。
 墓穴掘ってんじゃねえよ、俺!
 これだから無知は怖いって!
「あ……、そう」
 しかもアスカは工藤の言う奥の部屋の意味ですぐ悟ったらしく、意味深に言葉を切った。
「いくらでも見てくれてかまわない。せっかくの絵も見てもらえなければ意味がないだろう。あそこは平造にケアを任せているから問題はないとは思うが、佐々木さんや藤堂さんら専門家の目で見て何かあったら平造に教えてやってくれ」
 何のフォローをするでもなく語る工藤は手酌で日本酒を注ぐ。
 ちょ、なんだよ!
 そんな高級美術品を無造作に寝室とかに置くなよな!
 ツンツンした面白い絵だと、良太は何度思ったことか。
「俺、ビュッフェとかモディリアーニ好きです」
 そこへ森村が口を挟んだ。
「モディリアーニも何点かあったぞ。平造が倉庫にしまい込んでるが」
 工藤は今度見てみろ、などと言う。
「はい、ぜひ!」
「モディリアーニやなんて、俺もぜひ見せてもらわな!」
 佐々木も森村同様目を輝かせている。
 え? え? 何? 知らないのって俺だけ?
 森村も知ってる?
 うわ、先越された。
 心の中で喚きつつ良太は思い切り項垂れる。

 


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