その時ふいに良太が気づいたのは、そんな会話を傍で聞いたら、社長が部下のそんな様子も知っている関係ととられるだろうと。
男同士だから確率的にはそれととられる可能性は少ないかも知れないが、海老原のように、社長と部下がデキちゃってるナアナアの会社だなんぞと突っ込む輩がいないとも限らない。
どうやら工藤と良太のことを知らないらしい森村が知ったら海老原のように思ってしまう可能性も無きにしも非ずだ。
波多野は森村には話していないようだが、そもそも波多野は工藤の傍に良太がいることを好ましく思っていなかった。
いつぞやの鴻池のように、工藤にたかる蠅のごとく良太を邪魔な存在と捉えているほどではないにせよ。
魔女オバサンだってそうだ。
何だかだと良太に嫌がらせを仕掛けてくるのは、良太を工藤にくっついて片利共生しているコバンザメくらいに思っているからかも知れない。
実際時々、そうかもとか自分でも思わないでもないからな。
何のかのと工藤に文句を言ったりしてるけど、俺には工藤に三千万っていう負債があるんだってこと忘れてないよな。
少しは返したことになってるかもだけど、おいそれと返せるような金額じゃないわけで。
最近俺、調子に乗ってたんだじゃないか。
「そろそろ帰るか」
二杯目を空にした工藤が立ちあがった。
「あ、はい」
良太はハッとしてスツールを降りた。
青山プロダクションビルまで歩いて五分、軽く飲んで帰るにはいい距離だ。
飲み過ぎたら少し風にあたってから帰れるし、冬に凍える程でもない。
工藤に続いてエレベーターに乗り込むと良太は七階のボタンを押した。
「猫たち、お待ちかねだよな~」
隣の部屋を開けようとする工藤に、良太はごちそうさまでした、と軽く言うとカギをガチャガチャ言わせて慌てて中に入る。
わらわらと飛んでくる猫たちを抱きかかえようとした良太は、後ろでまたドアが開いたため振り返った。
「え、どうしたんですか?」
「炬燵はあったかいんだろ? ちょっとあたらせろ」
「は?」
一体全体何なんだ? と思いつつも、良太は靴を脱いで勝手に炬燵に足を突っ込む工藤を見下ろした。
「ちょ、コート脱いでくださいよ。スーツも、皴になりますよ!」
「なるほど、動きたくなくなるわけだ」
猫たちも遠巻きに工藤を見ている。
炬燵とか、工藤、嫌いだったはずなのに、どういう風の吹きまわしだよ。
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