「突っ立ってないで座ったらどうだ?」
何だよ? と思いつつも「コート! 上着!」と良太が催促すると、工藤はようやくコートと上着を脱いだ。
工藤の上着とコート、それに自分のコートと上着もドア近くに置いてあるハンガーラックにかけてから、冷蔵庫の横にあるワゴンからカリカリの袋を取って猫たちの皿にカラカラと入れると猫たちは早速ハグハグと食べ始める。
それを見届けると良太は工藤のやっと向かいに腰を下ろした。
「ほんとに、猫の毛がさ、べっとりついてるし」
すると猫たちが良太の膝めがけてやってきた。
「ここの絨毯あったかいから、ありがたいんだけど、掃除がさ、月一で俺の部屋までやってくれてるだろ? 猫の毛でかなり大変みたいなんだよな」
絨毯は家具は外して置いてあるし、夏になると夏用のカーペットに取り換えるのも平造の指示で清掃業者がやってくれるのだが、それも何だか申し訳ない気分になる。
業者が入っている間、猫たちがどうしているのかと、一度部屋を覗いたことがあるが、猫たちは窓際のキャットタワーに避難しており、業者は二人がかりでこの絨毯からゴミを掻きだすようにして掃除していた。
平造は工藤の部屋をやるついでだと言ってくれるのだが。
出かける時とか、帰ってきた時に、とりあえず引っ掛けられると便利なので、安物のハンガーラックを置いていたら、いつの間にか木製のアンティークっぽいハンガーラックに替わっていた。
部屋の中の他の家具にそぐわないといえばそうなのだが、それも良太は平造にかえって申し訳なくなる。
もしか良太でなくてもここに誰かが入っていれば、同じように扱ったのだろうとは思うのだが。
「それが仕事でやってるんだから、お前が頭を悩ませることはないだろう」
「それはそうなんだけど…」
「何をさっきから考え込んでる? お前が無駄に考え込むとろくなことがない」
工藤は鼻で笑う。
「何だよ、それえ……俺だっていろいろ……」
眉根を寄せた良太の口がへの字になる。
「仕事以外のことで、お前がいろいろ考える必要はない。特に波多野のことや、ババアのことなんかな」
そういうことだけでもないんだけど。
良太は心の中で呟いたが、それを口にできない。
「森村は遣いでも何でもお前の補助的な仕事をやらせてみればいい。車もあれば、行動範囲が広がるだろう」
「はあ、車は明日にでも辻さんとこに行ってみるつもりですけど……」
「森村はぱっと見日本人だが、あまり日本のことや東京のことはわかっていない。そこいらへんだけ気を付けてやればいいだろ」
京都ではずっと一緒に仕事をしていたのだから、工藤の方が森村のことをわかっているのかも知れない。
「あ、わかりました」
そうだっけ、俺と工藤は何ってわけでもないんだもんな。
良太は一人納得する。
海老原みたいなやつに何と言われようと、ドンと構えて有耶無耶にしてしまえばいいんだ。
いつだって……いつだって、俺が一人で勝手に思ってるだけのことじゃんね。
沢村と佐々木さんと俺らは全く違うんだし、俺ってば、何、面倒なこと考えてたんだろ。
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