春立つ風に203

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 辻はのんびりとコーヒーを飲みながらガラス張りの店内から外を見た。
 この横須賀店は中古車販売店としてはかなり大きな店構えで、『ピーターパン』は横浜、横須賀を中心に神奈川県内に十店舗を構えるなかなかの企業である。
 社長は四十代後半、辻とはまだ会社が本店のみで営業していた頃、バイクや車好きで昔やんちゃをやっていたというところでも意気投合して、辻がまだ大学時代からバイトに誘い、近年大きく成長していくうちには辻もその一端を担い、こうして店長を任された、というわけだ。
「例のやっちゃん絡みの事件は終わってんやろ? 今度は本業で忙しいんか? モリーの歓迎会くらいで目えの下にクマこさえたりせえへんやろ」
 辻はからかい気味に向かいの良太を眺めた。
「ああ、うん、まあ、うちはいつでも人手不足だから、今日も午後から俺でずっぱりで、夜はロケあるし。ロケにモリー連れてこうと思って」
「あいつ、何でも、はい、はい、てようやっとったみたいやんか? 京都でも。何やらされても口答え一つせんと」
「モリー、一見、その辺の何も考えてない学生みたいだけど、あいつ、ネイビーシールズだったって。経歴半端なくて」
 すると辻が俄然目を輝かせる。
「ほお? てえと、何? あいつ日本人やないんか?」
「日系三世だって。漢字が難しいし、わからない日本の常識がたくさんあるみたいで」
「へえ、そら、難儀やろうけど、頼もしいやないか。あいつニコニコしてて可愛ええし、良太のええ舎弟になるんちゃう?」
「舎弟、やめてください」
 良太は、はあ、と肩を落とす。
 その時、辻が、「おやあ?」と言いつつ、意味ありげに良太の顔を覗き込む。
「何ですか」
「何や、お仕事でお疲れや思うたら、そっちかいな」
 ニヤニヤと良太を見る辻を、良太は訝し気に見やる。
「え? そっちって………」
 辻は自分の首のあたりに右手を置いて、「微妙な位置やな? うなじんとこ」と言う。
「は?」
 良太は一瞬図りかね、次には、ハッとしてうなじに手をやった。
 ウッソだろお?!
 かあっと血液が逆流する。
「なあるほど、やっと京都から戻ったよって、社長もつい良太ちゃんを可愛がり過ぎてしもたと」
「え……何で知って……千雪さんが?」
 良太はしばしパニクった。
「いやあ、淳史のやつ、工藤に会うた日にすぐ気づいたらしいで? 何しろ恋する乙女やから」
「は……あ………」
 うわあ、どうしよう。
 こんな風に知られていったら…………。
「あっ」
 良太はふと、今朝車に乗り込む時、森村が何か言いたげな顔をして良太を見ていたのを思い出した。
「モリーのやつも、ひょっとして………」

 


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