春立つ風に212

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「ああ、彼女、アーティストなんだよ。石彫とか木彫とか、誘われて一度個展に行ったけど、ギャラリー一杯にでっかい木材を並べて、オブジェっての? 俺にはさっぱりわからなかったんだけど……」
 和穂は時々、特にイケメンを見た時など妄想にトリップする癖はあっても、ざっくばらんで話しやすい姉御肌なのだが、現代美術界では名の知れたアーティストらしい。
「そうそう、NYでもまたやるらしいけど、和穂が、海老原さんと野口さんはリアルBLだって。高校時代付き合ってたのに親に反対されて、でも最近野口さんが彼と別れたから、また海老原さんと付き合えばいいのにって言ってました」
 嬉々として説明する森村の顔を見て、良太はまた一つはあ、とため息をつく。
「そういうリアルな話は、和穂さんと英語で話してくれ。間違っても人前で俺以外に日本語で話さないように」
 って、野口さんが彼と別れたって、あのジェフのことか?
 何で和穂さんそんなことまで知ってるんだ?
「わかってますよ。で、和穂が、良太さんを宇都宮さんと沢村さんで取り合ってるって」
 それを聞いて良太は絶句した。
「はああああああ????」
「でも、沢村さんって佐々木さんですよね?」
「だからそれは言うなよ? 和穂さんにも」
 良太は念を押した。
「言いませんけど、良太さんの相手って宇都宮さんだったんですね。何となく二人の雰囲気でわかりました」
 ニコニコと言う森村に、良太は否定するのを一瞬忘れそうになった。
「だから………、違うから、宇都宮さんに失礼だぞ?」
「え、違うんですか? さっきもスキーの約束してたし」
 全く違う、とも言えないところはあったりするが。
「宇都宮さんはいい人だし、鍋もやったけど、何人かでだし、スキーはほら、合宿のことだよ」
「ほんとに違うの?」
 良太は首を横に振る。
「俺、絶対だと思ったんだけどな。独占欲が強い年上の恋人でしょ?」
 いや、戯れ好きなただのオヤジだ。
 良太は心の中で否定する。
「誰?」
 調子に乗って森村はやたら突っ込んでくる。
「も、俺のことはいいから、お前は文化の勉強でもしろよ」
「あ、早速、和穂から借りてきました、本! BLマンガ何冊か。文化の勉強頑張ります!」
 和穂さん、森村になんつう教育をしてくれるんだよ。
「いいけど、お前、とっとと合コンでもして彼女作れ」
「はいっ!」
 威勢のいい森村の返事に良太はまた大きく溜息をついた。
 その時、工藤がようやく坂口と別れ、こっちにやってくるのが見えた。
「自宅に行きますか? 工藤さん」
 後部座席に乗り込んだ工藤に、森村が聞いた。
「そうだな、会社で俺と良太降ろして、車乗っていっていいぞ。この時間じゃあちこち回って帰るのも疲れるだろ」
 何だよ、森村には親切じゃん。
 良太は工藤の無謀な命令に振り回された新人時代を思い出してちょっと皮肉る。
「良太、明日朝から出る予定はないんだろ?」
「ありません」
 ちぇ、俺に聞くのが先だろ?
 良太は心の中で抗議する。
「だったら、車は明日でいい」
「有難うございます。じゃあ、明日車返します」
 森村は元気に返事をすると、アクセルを踏んだ。

 


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