春立つ風に215

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 昨年の夏、軽井沢にある綾小路の別荘で大掛かりなパーティがあった時、綾小路家に住む藤原の息子公一が連れてきたバイト仲間に車泥棒がいたが、招待客にはほぼさわりなく京助や千雪の仲間らがその連中を捕まえて警察に引き渡したという、少々物騒な事件があったのだが、結果よければよし、だ。
 ちょうど工藤と良太もそのパーティに出席していたのだが、良太も巻き込まれる羽目になった。
「ああ、マスコミはお断りやけど」
「ですね」
 参加者には業界関係者やセレブもいるので、そのあたりは気を付けているらしい。
「あ、そうだ、例のペンダントの鑑定をお願いしたいんですけど」
「急がんのやろ? スキーの時持って来たらええんちゃう?」
「はあ」
「なんや、気乗りせん返事やな」
「それがですね……」
 森村の歓迎会でみんなでご飯を食べた時、アスカや工藤が、軽井沢の工藤の別荘にある絵や調度品は、工藤の曽祖父の主義でホンモノだということが分かったのだと良太は説明した。
「それで、ペンダントの宝石もホンモノやないかと?」
「はい、あれホンモノだったら、持ち歩くのも俺、やですよ」
「車に積んでいくだけやろ?」
 千雪は笑っている。
「工藤さんはいらん言うてるんやったら、良太が失くそうがどうしようがかまへんの違う?」
「怖いこと言わないでくださいよ」
 千雪はまた笑い、「まあ、ホンモノやろな。あそこの絵もホンモノやったし、モディリアニとか」と言う。
「え、千雪さん、絵、見たことがあるんですか? モディリアニって有名人なんですよね?」
 すると一瞬間があったが、「何かの話のついでで、平造さんに見せてもろたことがあったわ」と千雪は言った。
「はあ、俺、全然、芸術音痴だから、ツンツンした絵もそんな有名なモノとはつゆ知らず」
「やから、興味がなければ、ただの飾りやからなあ」
 とにかくペンダントをスキーに持って行くことになった。
 とはいえ、工藤が行く、と言ったからには、工藤の予定に合わせたい。
 工藤、帰ってきたら聞いてみないと。
 会社の電話が鳴ったのは、森村と鈴木さんがキッチンにいる時だった。
「はい、工藤はただ今席を外しておりますが」
 相手は横浜厚生病院の石川と名乗った。
「そうですか。全く、ちゃんと聞きに来いって言ったのに、あいつは………」
 石川はそんなことを電話の向こうで呟いてから、「あ、じゃあ、戻ったらいつでも電話してから来るように言ってください」と言う。
「あのっ、どういうご用件でしょうか?」
 電話を切られる直前に、良太は焦って聞いてみた。
「申し訳ありません。個人情報ですので、本人にこちらに来るようにお伝えください」
 電話が切れてから、良太はしばらく受話器を握ったまま固まっていた。

 


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