春立つ風に218

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 自分のデスクに戻ってきた良太は、苦い表情をしたまま席についてキーボードを叩いた。
 声を掛けづらい雰囲気を察して、森村はチラッと良太を見やったが、すぐに自分の作業を続けた。
 良太に何でもいいから、日本の文化について検索してみろと言われている。
 だが、やはり、さっきの二人の会話が気になっていた。
 良太は、どこか悪いのか、とか工藤に聞いていた。
 工藤さんが病気?
 良太が聞いたことに、工藤が適当にあしらった、ように見えたし、心配したのにそういう答えをした工藤に良太が怒っているらしい。
 工藤が病気だということを波多野に伝えた方がいいかどうかも、森村は迷っていた。
 工藤を監視するためにここのバイトを始めたわけではないが、工藤が病気ならやはり知らせるべきだろう。
 ああ、でも、ちゃんと確かめてからじゃないと、あやふやな報告はできない。
 森村はもう一度良太を見たが、今度はじっとモニターをみつめて何か思い悩んでいるようだ。
 そういえばさっき、窓の外を見た時出て行った車は工藤のベンツではなかったかと思い当たる。
「あの……良太さん」
 呼ばれて良太は森村を見た。
「工藤さん、お出かけでしたか? さっきベンツが出ていきましたけど」
「え………あ、そう」
 良太はちょっと驚いた顔をしたが、すぐ、納得した。
 病院に行ったに違いない。
 コソコソしなくちゃならないくらいのことなのかよ。
 良太は不意にさあっと身体中の血液が下がっていくような気分に襲われた。
 と思ったら今度は頭がぼんやりして熱が上がり始めた気がした。
 ダメだ………。
 良太はデスクに肘をつき、両手を組んで頭を持たせかけ、目を閉じた。
「良太ちゃん、やっぱり体調よくないわね、もう上がった方がいいわ」
 鈴木さんが気が付いて、良太を促した。
「ですね、そうさせてもらいます」
 パソコンの電源を落とし、鈴木さんと森村にあとを頼むと、良太はオフィスを出た。
 幸か不幸か、オフィスから自分の部屋までエレベーターで五分とかからない距離だ。
 たまたま今日は出かける予定もなく、急ぎの仕事もなかった。
 ほっとして気を緩めると風邪を引くのは子どもの時からだ。
 精神的なものも大きく左右して、寝込んでしまう。
 良太は部屋に上がると、駆け付けてくる猫たちを撫でてやり、ごはんを皿に置いてからベッドに突っ伏した。
 しばらくそうしていたが、皴になると思いようやく起き上がり、スーツを脱ぐとハンガーに掛ける。
 脱ぎ捨てたシャツを選択かごに放るとスエットに着替えて良太はベッドに潜り込んだ。
 昼を食べた後に薬を飲めばよかった。
 そんなことを思いながら、良太は身体を丸めてもう眠りに落ちていた。
 工藤がオフィスに戻ってきたのは夕刻で、もう鈴木さんが上がる頃だった。
「お帰りなさい」
 帰り支度をしていた鈴木さんと、パソコンから顔を上げた森村が言った。
 だが良太の姿がなく、デスクのライトも消えている。
「良太はどこか行ったのか?」
 工藤は自分のデスクに行く前に二人に尋ねた。


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