春立つ風に220

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 工藤は苦笑して、良太の顔を見下ろした。
「また、風邪を引いたのか。少しは何か食べたのか?」
 工藤はもう一度良太の額に手を当てた。
 まだ熱いようだ。
 だが、今回のは風邪というよりは俺のことで精神的なものが大きいのだろう。
「……眠くて……昼にちょっと食べた」
 良太はボソボソと言った。
「何がいい? 出前でも頼むか?」
 良太は頭を振った。
「あんまり……そういうのは」
「じゃあ、やっぱりおかゆとか買ってくるか」
 工藤は立ち上がった。
 ところが、良太が工藤のジャケットの裾を掴んでいるのに気づいて、工藤は振り返った。
「………病院、行ってたのか?」
 良太はやっとそれを口にした。
 聞くのも怖かった。
 もし…………。
「ああ」
 工藤は良太の思いを察した。
「フン、お前がうるさく禁煙禁煙言ってくれたお陰で、今回は問題なしだと」
 良太は次第に目を見開いた。
「大学の学部は違うが同期の石川が、忙しさを理由に検診を受けない俺や小田や荒木にしつこくいい年なんだから検診しろと毎年言ってくる。たまたま京都から戻ってすぐに石川に掴まって検診したら、気になるから生研だとか言いやがって」
 工藤は笑い、「仮に何かあっても俺が九十九パーセント治すとか豪語しやがるから、安心しろ」と、良太の頭を掻きまわした。
「バッカやろ! あたりまえだっ! ………嫌だからな!………」
 あんたがいなくなったりしたら。
 声を大にして怒った良太の目尻から、涙が伝って枕に落ちる。
 怖かったのだ、ものすごく。
 工藤が万が一にも自分の前からいなくなったらと。
 警察に捕まったくらいではない、存在がなくなったらとそこまで考えると、頭が真っ白になった。
 空気を吸うのも苦しくなって、ただ眠りたくなった。
「フン……、俺なんかより、小田だ。あいつ何のかの理由つけて石川から逃げ回っているらしい」
「小田先生が?」
 良太からすると謹厳実直の権化のような小田が、と意外ではあったが、工藤が何でもなかったことを聞いた後では、何だか小田も人間らしいところがあるのだと思えてくる。
 工藤が出ていくと、ホッとしたのかまた瞼が落ちてきて、良太は寝息を立て始めた。
 向かいのコンビニに再度足を踏み入れた工藤を、また来たのかというような顔で、ビビりつつコンビニのスタッフは一瞬凝視した。
 パンやサンドイッチはすぐ目についたが、おかゆだのスープだのがどこにあるかわからず、工藤は「おかゆはどこですか」とスタッフに声をかけた。
「はいっ!!」
 途端、スタッフはひっくり返ったような声を出した。
「こ、こちらの列の奥の方に……」
 先細りの説明に、眉を寄せながら工藤はレトルトフードが並ぶ棚に歩み寄り、おかゆやスープの類をカゴに入れた。
 あとは良太の好きそうなヨーグルトやプリンの類をいろいろとカゴに入れ、牛乳パックを見て、それも手に取った。
 ふと思い出したのは子どもの頃、曾祖母が作ってくれたパンのミルク煮だ。

 


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