春立つ風に221

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 珍しく風邪を引いて寝ていた時のことだ。
 少し甘くしてあったのか、それがとても美味しかった記憶がある。
 良太が食べるかどうかわからないが作ってやるか。
 ビビりまくりのスタッフは、工藤が最後に食パンを入れたカゴの中の商品のバーコードをチェックし始めた。
 こいつ確か、この間もいたな。
 工藤の方も、このスタッフをうろ覚えに覚えていた。
 ふとレジの前に目をやった工藤は、加熱容器に湯気をたてているのが、おでんだと気づいた。
「この……」
「ひっ………!」
 工藤がちょっと声をかけるとスタッフはおかしな声を出して手を止めた。
「おでんを二つずつ全種類下さい」
 何なんだこいつは。
 思い切り顰め面になった工藤を見て、スタッフは慌てふためいておでんのカップに入れていく。
 精算を済ませてカードを工藤に返す際には、息まで切らしているスタッフをひと睨みすると、工藤はコンビニをあとにした。  
 街灯に照らされて小雨が降り始めたのがわかり、工藤は足早に向かいへと渡る。
 冬の雨はともすると雪よりもそぞろ寒い。
 炬燵掛けの上で寝ていた猫たちはドアが開くと、顔を上げて工藤を見たが、またすぐに二つ擦り寄っていた。
 良太は眠っていた。
 工藤はキッチンに行くと、片手鍋に牛乳を適量入れてその中にパンをちぎって入れ、砂糖の置いてある場所がわからなかったのでコーヒー用のスティック状の砂糖を買ってきたのだが、それを二本ほど入れた。
 レンジは最近どこもかしこもIHだが、炎の見えるガスレンジの方が工藤には使い勝手がいい。
 このビルを建てる際、調理器具はみんなIHにしており、一度、新しいものに取り換えた。
 この良太の部屋は、いつぞや模様替えの際にさらに平造が取り替えたので、かなり新しい器具になっている。
 良太が湯を沸かしながらうっかり炬燵で寝てしまっても、一定時間が経つと自動的に切れるようになっているのは有難い。
「良太」
 工藤はベッドの傍らに立って良太の顔を覗き込んだ。
「何か食べないか」
 目を覚ましてもしばらくぼんやりとしていたが、やがて良太は身体を起こした。
「これ、何?」
 大き目の器に鍋から移したパンのミルク煮をトレーに乗せて良太の前に差し出した。
「パンのミルク煮だ」
 良太はスプーンですくって口に運ぶ。
「…っつ……美味しい……」
 呟くと良太はあっという間に器を空にした。
「食べたら何か腹が減ってきた」
 工藤はフンと笑う。
「おかゆとかサンドイッチ、パン、バナナとかあるぞ。俺はおでんを食う」
「おでん! 食べたい!」
 急に元気を取り戻したように良太は言った。
 工藤はおでんを容器ごと電子レンジに入れた。

 


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