春立つ風に222

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「そんなことだろうと思って、多めに買っておいた」
 二つの容器に分けて入れられていたもう一つを電子レンジに入れると、工藤はトレーに先に温めた容器を乗せてベッドに持って行く。
「うまそ!」
 良太は湯気を上げているおでんに早速箸をつけた。
「あの店員、ちゃんと分けてくれたらしいな」
 全種類のおでんを二つ、用意してくれていた。
 箸やらお手拭きやらもちゃんと二セットついている。
 あのスタッフ、ビビりながらもプロ根性はあったのか、まあもう習慣になっているだけなんだろうが。
 ついでに買ってきた日本酒をマグカップに注ぎ、レンジで温めると、工藤はおでんと一緒に炬燵に向った。
「熱はどうなったんだ?」
 猫たちがくっついて寝ているところを避けて腰を下ろすと、工藤はまず日本酒に口をつけた。
「もう、平気、だと思う」
 大根をハフハフ言いながら食べ終えた良太は答えた。
 何となくまだ頭がぼーっとしている気もするが、工藤が病気でも何でもなくてよかったと思ったら、さっきはもう動くのすら億劫だと思ったのに、今は一〇〇メートル走れと言われても走れそうだ。
「フン、あとで薬は飲んでおけよ」
「ちゃんと飲むし、もう割と大丈夫」
「お前は自分を過信し過ぎるから、いきなり熱を出すんだ。休める時に休めよ」
「……わかった…」
 良太にしては殊勝な声で返事をすると、またおでんに専念した。
「あの子とはどのくらいの付き合いになるんだ?」
 昼過ぎに工藤が横浜厚生病院の外科部長室に行くと、開口一番石川が聞いてきた。
 工藤は眉を顰め、「ああ? 何のことだ?」と聞き返した。
「お前の会社の、広瀬くんだっけ? 死のうが生きようがくらいだったお前が、急に死ぬのを回避したいと思ったのは、あの子のせいだろ?」
 石川はしれっと言った。
「お前は医者だと思っていたが、いつ占い師になった?」
「せめてアームチェアディテクティブと言ってくれ。これだけネットに情報が溢れているんだ。青山プロダクション、工藤でググれば、去年の撮影中のハプニング動画がわらわら出て来たぞ?」
 工藤は苦々しい顔で石川を睨み付けた。
「あのシーンだけで、取り乱すなんてこととは常に無縁のお前の必死さがわからないはずはない。長い付き合いだからな。あの坊やがお前の会社の広瀬良太くんだってこともすぐに知れた」
 工藤はフンと鼻で笑い、「それより結果はどうだったんだ?」と聞いた。
「ああ、なんっともない。よかったな。あ、ははあん、お前に禁煙をすすめたのは広瀬くんか? それでお前は生き永らえたと」
 からかうように笑う石川をもう一睨みすると、工藤は「すすめるなんてもんじゃない、いい年なんだからだのなんだのかんだの、俺が煙草を咥えるたびに言いやがって、おまけにアスカなんか、同じ車に乗ると服にニオイがつくからやめてよね、だ」とボヤイた。

 


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