春立つ風に223

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「世の中変化してきているとはいえ、芸能プロの社長が自分とこの若い男性社員とどうのとか知られると広瀬くんが困るからな。お前、そこはきっちり責任取らなけりゃな。まあ、俺くらい分析能力がなけりゃ、そうそうわかりゃしないが」
 石川はまた高らかに笑う。
「フン、バツイチが知った風なことをよく言うぜ」
「うるさいな。人間同士だ、一緒に暮らしていれば段々見解の相違ってのが浮き彫りになってくるもんだ」
 ムキになって食って掛かる石川を工藤は鼻で笑う。
「ワイフに出ていかれたくせに」
「まあ、ほとんど病院で暮らしていたようなもんだからな。上司の娘に惚れられて結婚したが、彼女にとってはこんなはずじゃなかったんだろ」
 でかい顔をしていた石川が少し怯んだ様子をみせる。
「実際当時は恋愛に回す時間もなかったからな。人間は失敗を踏まえて這い上がっていくもんだ。この病院で俺がどんだけモテ男だか、知らないだろう?」
 今度は偉そうにアームチェアにふんぞり返った石川は嘯いた。
 工藤がこの男に大学で出会った時、出身地が近いというだけでなく、片や貿易会社の曾孫だが、祖母が広域暴力団組長の妻という事実はその界隈では大抵知られていたし、片や大病院の御曹司と言えば聞こえはいいが、手段を択ばず病院の建築用地を買いあさり、売り渋っていた一人が、抗議のために当時病院の理事長だった石川の父親が乗った車の前に飛び出して事故死するという事件が起き、ネットやマスコミに散々叩かれたという経緯があり、世間を斜に見ていた者同士、言葉を交わすようになった。
「フン、どんだけモテ男だか知らんが、とっとと相手を見つけてから自慢しろよ」
「あ、おい! 小田にもとっとと検診に来いって言っておけ」
 石川の張り上げた声を背中に、工藤は石川の部屋を出て病院を後にした。
「急に死ぬのを回避したいと思ったのは、あの子のせいだろ?」
 帰りの車の中で、工藤は石川の言葉を反芻していた。
 核心を突かれたというのが実際のところだ。
 人間はいざとなった時に、本音が出てくるらしい。
 石川に生研をすると言われ、もしかするとと考えた時、まだ良太と離れたくないという思いを痛烈に感じたのだ。
「来月の初め、平造の誕生日だが、いつもは旅行に行ってもらったりしているが、他に何か案があるか?」
 思い出して工藤は口にした。
 それこそ自分が倒れたりしたらと平造のことも頭に浮かんだ。
「旅行以外ですか? そうだな……」
 良太は小首を傾げる。
「ちょうどスキー合宿行きますよね? その時にみんなで食事会ってどうですか? どうせアスカさんも秋山さんも、それに小笠原も行くって言ってたし。いつ頃ならいいですか? 工藤さんに合わせますから」
 スキー合宿に行くって言ったよな? と念を押すように良太が工藤を見た。
 

 


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