春立つ風に227

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「良太さんもドラマとかやったことがあったんですよね? 聞きました。どうして続けないんですか? その時注目浴びたんですよね?」
 唐突に森村がそんな話を持ち出してきた。
「何ごとにも資質ってものがあるだろ。資質ってつまり、俳優とかのクオリティ? 俺にはないよ。だからこの仕事やってるとかじゃないけど、ってか、プロデューサーとかももちろん資質が問われるし、俺にこっちの資質あるってわけでもないけど、やりたいって思ったのはこっちだったってことだよ」
 まあ、工藤の背中を追いたいって思っただけだといえばそうだけど。
 俳優やりたいとか、思わなかったもんな。
 みんな、演ずることに命かけてるよな、俳優って。
 そういえば、工藤、どうしてこの仕事を選んだんだろ。
 おそらくだけど、司法試験受かったのにそっちに進まなかったのは、自分の出自を考えてのことだろうけど、ほんとはそっちに進みたかったんだろうか。
 聞いたら、答えてくれるだろうか。
 大抵はぐらかすか、本音は吐かないんだよな、あの人。
 ってか、工藤がもしか病気とかが見つかったとしても、寝込んでちゃ、工藤の片腕なんて失格じゃんね。
 しっかりしろよ! 俺!
 だからガキだって笑われるんだ。
 俺が片腕だなんて、頼ってもらうなんておこがましいし、工藤なんかちゃんちゃらおかしいってせせら笑うくらいが関の山だろうけど。
「スキー合宿って、ずるい!」
 自分の思考に入り込んでいた良太は、いきなり背中をバン、と叩かれて振り返った。
「紗英さん。ずるいっても、スケジュールいっぱいのくせに」
「そうだよ、ずーっと仕事が詰まってて、オフもほとんどない」
 持っていたコーヒーをゴクっと飲んで、竹野は森村に向き直る。
「新人くん?」
「あ、すみません、うちの森村です。こちら竹野紗英さん。よろしくお願いします」
 慌てて良太は森村を竹野に紹介した。
「森村です。広瀬の下で仕事してます。よろしくお願いします」
 森村は深々と頭を下げた。
「え、俳優さんじゃなくて?」
「はい、前はADとかやってて、今は広瀬さんの部下です」
「そうなんだ、よかったね、良太。部下ができて」
 竹野はからかうように言う。
「はいはい」
「鍋はするよね、また宇都宮さんちで。私はそれを励みに頑張るから」
 そう言うと、竹野は次のシーンに向けてスタンバイした。
「鍋よりもっと志高いところを励みにしてくださいよ」
 良太は竹野に言い返した。
「全然、こわくないですよ? 彼女」
 構えていた森村が緊張を解いた。
「そうだな。前よりは丸くなったかな」
 良太はいつだったか、工藤が来ないと知って大きな声で文句を言っていた竹野を思い出した。


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