あれには驚いて、エキセントリックな人だと思い、またしても工藤絡みの山之辺芽久パート2かと良太はげんなりしたものだが、実のところ竹野はそういう感情はなく、役のことや演技のことをつきつめて考える人だった。
「どうだ? 竹野は」
「何でみんな後ろからいきなり声を掛けるんですか」
またぞろ後ろから声をかけられ、工藤を認めると、良太はちょっとブツクサ文句を言った。
「いたって順調です。すごいみんな役に入り込んでて、ドラマ見てるみたいです」
「ドラマやってるんだろうが」
工藤は当たり前の答えを返す。
「工藤さん、顔を忘れるとこでしたよ」
次のシーンの撮影が終わると、山根監督が工藤を見つけてやってきた。
「なかなかいい雰囲気でしょう。今回、竹野さん効果か、みんなすごい気合入ってて」
「面白くなるにこしたことはないだろう」
腕組みをしながら、工藤はスタッフや俳優陣を見回した。
確かに全体にいい緊張感があって、実際竹野効果なのか、俳優だけではなくスタッフも生き生きとしている。
ドラマでも映画でも、竹野の作品に対する向き合い方は、休憩時間でも自分の気になるところがあると、台詞を何度も繰り返したり、時に手ぶり身振りを加えながら動きを確認したりと、入れ込み方が半端ではない。
森村が山根と工藤にコーヒーを持ってきた。
「ああ、ありがとう。森村くん? 新人さんだっけ?」
山根が森村に聞いた。
「あ、広瀬さんの下で仕事してます」
「俳優さんじゃなかったんだ?」
「はい」
にこにこと森村は山根に返事をした。
「よかったですね、良太ちゃん、一人でてんてこ舞いだったから」
またアスカと竹野に掴まっている良太を見やりながら、山根が言った。
「でもよくやってますよ、良太ちゃん」
「だったら俺の出る幕はないな」
「またまた」
「いや、もう、このシリーズは良太に任せようと思うんだが」
サラリと言う工藤を見て、山根は真面目な表情になった。
「それはいいと思いますよ。ただまあ、もうちょっと、顔だけ出してやったらいかがです? 順調すぎるっちゃすぎますからね、今のとこ大きな問題もなく」
工藤はニヤリと笑う。
「山根さんも過保護だな」
「そりゃまあ、良太ちゃんいい子だし、おかしなことでつまづいてほしくないですからね」
「つまづかないと前に進めないと思うが」
「いやまあ、つまづいた時に後ろに工藤の名前があれば、とか思って」
フンっと工藤は苦笑し、竹野やアスカと笑っている良太を見た。
山根は良太を心配して言うのだろうが、京都で斎藤の推していた勘違い女優を良太が降ろした時のことを関係者や斎藤自身からも話を聞いたが、いざとなればもう良太が自分の判断で動けるだろうことはわかっている。
相手が誰であろうと対応を変えることはしないのは、工藤を見て来たからというわけではなく、良太自身がそういう資質だからだ。
ただ、工藤が後ろにいるというのがあってこそだと、山根も言うのだろう。
まあ、責任が全て自分自身にかかるとなると、力が入り過ぎて空回りすることもあるだろうが。
フン、俺も大概、過保護か。
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