春立つ風に231

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 現に新人には最初きつい対応をするはずの大澤流に弄られても森村は笑っている。
 良太ならとっくに言い返しているところだろうが、森村は冷静なのか沸点が高いのか。
「工藤さん、今日は珍しく暇なんですね」
 前を走る工藤の車のテールランプを追いながら、次のロケ地に向けて森村はアクセルを踏む。
「らしいな」
 今日の工藤を良太も意外に思いながら、さっきから助手席でタブレットを睨み付けていた。
 スキーに行くメンバーは、アスカ、秋山、小笠原、森村、良太、工藤の六名が青山プロからで、美亜が小笠原と一緒、あと牧さんが行くということで、スキー用具とか平造へのプレゼント、それに綾小路への土産などを積んでいくとなると、やはりどうしても車は四台か。
「やっぱ四台で行くっきゃないかな。でもこの車だと荷物積むといっぱいで、前のベンツだって、あんまり積めないぞ」
「スキーとかわかってたら、大き目のワゴン車とかにしたんですけど……」
 森村の一言で良太は、あっと思いつく。
「そうだ、辻さんとこで貸してくれないかな」
 早速良太は辻に連絡を入れた。
「おう、それ! 実は俺も週末行こ思て」
「え、そうなんですか?」
 何せ、ただで泊まらせてもらえる上に、風呂は温泉だし、と辻は電話の向こうで笑う。
「加藤がスノボやりたい言うし。あと、研二とこっち三人やから、グランドチェロキーで行くよって、何なら荷物引き受けるで?」
 願ってもない申し出に、良太はお礼つきでお願いすることにした。
「そしたら、ジャガーで四人行けるだろ。あ、でも直ちゃん、どうするんだろ。今週末と月曜休みになったって言ってたから、佐々木さんらも一緒だろうし」
 直ちゃん、去年は浩輔さんと一緒に行ったんだっけ。
 良太は行きが佐々木さんと一緒で、沢村の企みに乗せられたことを思い起こすと、あのやろう、とまだ思わないでもない。
「あ、直ちゃん? 週末、軽井沢行くんだよね?」
 直子に電話をすると、藤堂や浩輔、それに藤堂の同居人の悠と四人で行くことになっているらしい。
 悠は美大を出た新進画家で、プラグインのビルの三、四階に入っているギャラリー『銀河』で個展を開いたりしている。
「だったらいいんだ。今年うち、何人もで押し掛けるから、車をどうするかって話」
「河崎さんは行かないんだけど、ドーンとSUV車、買ってくれちゃって、あと一人か二人なら乗れるけど?」
「いや、大丈夫。辻さんらも行くんで、荷物を引き受けてくれたんで」
「わ、賑やか! 楽しみい! 佐々木さんにも誘われたんだけどさ、お邪魔虫になるからね~」
「それ、わかるわ~」
 良太は直子に同意する。
 沢村はあからさまだし、佐々木自身は気づいていないかも知れないが、沢村と一緒にいる時はまさしく二人の世界になっている。
 まあ、沢村は三月のWBCにも当然のことながら選抜メンバーにされているし、佐々木と会える時は一緒にいたいのだろう。

 


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