春立つ風に232

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 沢村のそういうところはわからないでもないが。
 そういえば、佐々木さんのお母さんにお試しとかって話、どうなったんだ?
 二人のようすを見る限り、却下はされていないらしいが。
 沢村の方のお母さんは全然OKみたいだけど、家族がOK言ってくれるのにこしたことはないよな。
 父親の方は沢村にとっては問題外ってとこだろう。
 直子との電話を切ると、良太は「肝心なこと伝えるの忘れてた」と森村に向き直る。
「スキー合宿、費用はいらないんだけどさ」
「やだなあ、温泉付きのスキーに費用がいらないなんて、絶対何かありそうな気がしてましたよ」
 森村は途端に顰め面になる。
「いや、そんな大それたことじゃないって。合宿って言うくらいだから、手の空いたものが風呂掃除とか、食事の準備とか買い物とかするんだよ」
「え、他に何かとんでもないことが待ってるわけじゃない?」
「ないない、ああ、たださ……」
「ほらやっぱり何かあるんだ!」
「違うって。京助さんのスキーのコーチはスパルタだって話。ま、シールズで鍛えられたモリーなら、全然大丈夫かもだけど」
「え、コーチまでしてくれるって、京助さんって、その別荘の主人なんでしょ? 教会みたいな人だな」
 良太は吹き出した。
「京助さんが教会って、それ、受けるわ」
「えっと、千雪さんのお姉さんのパートナーの弟?」
「まあ、そう。二人は仕事上でもバディで知られている」
「そんな有名人?」
「うーん、千雪さんはベストセラー小説家で、京助さんは……いわゆるセレブの御曹司? で有名」
 日本語ではどう言えばわかりやすいかを考えた良太は、無難な表現で説明した。
「あ、なるほど、だから、ただで合宿させてくれるんだ?」
「そうだな」
 以前よりは京助に対する苦手意識は薄らいだが、どうしてセレブってのは一癖も二癖もあるようなやつらばっかなんだ。
 海老原といい、鴻池といい、良太としては仕事上のお付き合いでも遠慮したいところだ。
 そんなことを考えているうちに、夕闇が落ちた頃車はロケ地に着いた。
 青山通りから一本入った通りの駐車場を確保しておいたが、スペースは森村の運転するショートワゴンが入れるだけしか空いていない。
 先に着いた工藤は、車を降りて、誰かと話していた。
「お疲れ様です」
 コートを羽織って、工藤の方へ歩み寄った良太は、「あ、良太ちゃんだ!」と言う声に、工藤と話している相手がわかった。
「お疲れ様です。水野さん、どうしたんですか?」
 ドキュメンタリー番組で絶滅危惧種の動物を追ったレッドデータアニマルズの音楽を担当したバンド、ドラゴンテイルのボーカル水野あきらだった。

 


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