春立つ風に230

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「金曜の昼までにスキー行く人数と車、まとめておきます」
 ここにきて工藤の検査が何でもなかったことに、良太は改めてよかったと思う。
 もし仮に、工藤の友人の外科医が九十九パーセント治してくれるとしても、手術や治療ということになったら、こんな風にスキーだ何だと浮かれていられない。
「そうだ、良太さん、スキー用具とか、現地で借りれるんですよね?」
 森村が良太の顔を覗き込んだ。
「借りれるよ。モリー、スキーできるんだ?」
「いやあ、全く初めてですよ。スケートやスケボーならできるけど」
「だったらスノボの方がいいんじゃないか?」
「そうかな」
「スノボなら向こうに行けばお仲間がいるから聞いてみたらいいよ。俺、スノボはやったことないし」
「はあ」
 何となく自信なさげな顔をしている森村は、一見、普通の若者だ。
 だが、実際日系三世のアメリカ国籍で、しかもシールズ上がり、さらに波多野の養子だ。
 工藤は笑っている森村を一瞥して、今朝がたの波多野からの電話を思い出した。
「よかったですね、検査結果何でもなくて」
 どうしてあんたがそれを知っているのかとは聞くのも面白くない。
「繁久が心配して連絡をくれたんです」
「あいつはあんたに逐一報告しているわけか?」
 工藤は少しイラつきながら聞いた。
「まさか。誓って繁久をスパイにするつもりなんかないですよ。京都での仕事は、あなたのガードを含めて送り出したんですが、そこの仕事は繁久の希望だし、今回も、たまたまあなたと良太が話しているのを耳にしたらしくて、あの子が私に連絡をくれるのは、住所が変わったとか仕事が変わったとか、後はクリスマスと誕生日にカードをくれるくらいです。表裏の無い子ですよ」
「あいつ、日本に親族とかいないのか?」
「おりますよ。あの子が知りたがれば教えてやりますが、祖父の代で移住しましたからね、親戚でも遠いでしょう」
「そうか」
「それより良太に懐いているみたいですし、私に、あなたと良太、どういう関係かと聞いてましたが」
「話してないのか?」
「人の恋路まで吹聴する趣味はありませんよ」
 良太のお陰で煙草をやめてよかったですね、今まで以上にお身体を大切になさることです、あなた次第で事件が勃発しないとも限らないので。
 最後にくれぐれもと釘を刺して、波多野は電話を切った。
 日比野の元に森村を送ったのは波多野の目論見だったようだが、京都での仕事ぶりからも森村は素直で悪気のない性格だとは思っていた。
 だからこそバイトをしたがっていると聞いて、良太ともうまくやるだろうと考えたのだ。

 


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