春立つ風に234

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「はい、何ですか?」
 振り返った良太は、足早に何やら渋い表情の工藤の元に歩み寄った。
「CMの方はどうなってる?」
「来週の火曜日にミーティングの予定で、水野さんにも参加してもらうことになってます。沢村は淡路島の小学校訪問予定で間に合えば顔を出すそうです。来週末、東洋商事でミーティングの予定です」
 良太はざっと説明した。
「あ、また、佐々木さんと一緒だよね? 楽しみ」
 水野が笑顔で言った。
 そうだった、この人、佐々木さんにすごく興味持ってたんだ、と良太は前回一緒に東洋商事に出向いた時のことを思い起こす。
「沢村選手にも逢いたいな」
「火曜日、多分、間に合うと思うんですけど」
 午後四時に設定したのは、沢村のゴリ押しもあるが、できれば沢村も参加した方がいい。
 佐々木と一緒の仕事だから、沢村が必死になって駆け付けるだろうとは思うのだが、またムチャをしなければいいが、と良太は眉を顰める。
「今度こそ、打ち上げ、やろ? 何か良太ちゃん、忙しすぎじゃない?」
 水野に顔を覗き込まれ、良太はハハハと空笑いする。
「お前、未だに飲みが過ぎるそうじゃないか。いい年なんだから、考えて飲めよ」
 そこへ工藤が口を挟む。
「うるさいな。高広こそ、煙草、やめられたわけ? 肺ガン一直線って感じだったじゃん」
 水野の言葉に良太は思わず反応してしまう。
 一歩手前でとどまったものの、まだリスクが軽減されたわけではないのだ。
「俺は毎年、検診受けているし、何かあったらすぐ処置してくれるっていうダチの医者がついてるからな」
「そうゆう、安直なのは心構えじゃないですから。煙草やめても過剰なワーカホリックは考えるべきです!」
 つい、強い口調で良太は言った。
「その通り! いいこと言うじゃん! さすが良太ちゃん」
 水野が大きく頷いた。
「水野さんもですよ?」
 すると水野は柔らかく笑った。
「良太ちゃんに言われると、はい、って言わざるを得ないね」
 どうやら、水野もひとみも工藤も確かに類友らしい。
 工藤の若い頃がかなりハチャメチャだったとは、これも工藤の戦友のような元同僚である下柳からも聞いたことがある。
 下柳はMBCを辞めてからフリーディレクターとして、ドキュメントをメインに工藤と仕事をしている酒好きな男だ。
 普段は無精髭で好々爺のようなたたずまいだが、仕事になるとそれこそ鬼のように妥協を許さない。
 ヤギさんも、他人事じゃないよな。
 下柳にどこかで会ったような気がしていたのは、良太にいつも優しくしてくれた母方の祖父のイメージにどことなく重なったからだ。

 


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