「フン、お前が良太ちゃんに怒られたからって俺に八つ当たりするなよ。酒のない人生なんざ、こちらからお断りだ」
ガハハと坂口が笑う。
ああ、坂口さんも肝臓とか、数値が高そうだよな。
良太は眉を顰める。
この業界、忙しすぎたり飲み過ぎたりで、身体壊す人多いもんな。
撮影は順調に進み、そのうち、隅の方でしばらく工藤と顔を突き合わせて何やら難しい顔で話をしていた水野が帰って行った。
監督や坂口と次の撮影のことやら出演するエキストラのことやらを話しながら、良太はたまにチラリと工藤と水野の方を見たが、どうも軽く話しかけるような雰囲気ではなく、何だろうと気になっていた。
ちょうど日付が変わる頃、撮影が終わると、途中で配った弁当の殻をゴミ袋をまとめて持ってきた森村が車に積み込み、また森村の運転で、坂口や溝田監督と打ち合わせがあると言って近くの店に入って行った工藤を残して、良太は乃木坂へと向かった。
「宇都宮さんってすごい優しい人ですね」
赤信号で止まった時、思い出すように言った森村に、ああ、と半分上の空で返事をした良太は、またぞろ水野のことが気になって頭から離れなかった。
「水野さんて、バンドやってる人なんだ? 小笠原さんが言ってたけど、綺麗カッコいい人ですよね」
水野、という言葉に少し敏感に反応してしまう良太は、「そうだな」と答える。
「水野さんと工藤さんって、どういう関係なんですかね、かなり親し気だったけど」
「さあ…………、昔からの飲み仲間らしいけど」
ただの飲み仲間ならな。
水野さんって、佐々木さんに対してもそうだったけど、いいと思う相手にはすごく積極的だよな。
ってか、昔、やっぱなんかあったのかな、工藤と。
ってより、何、話してたんだろ、えらく真剣な顔してた、工藤の方も。
ちぇ、どうせ俺には関係ないことだろうさ。
「良太さん」
肩にポンと森村の手が置かれて、ハッとして良太は振り返った。
「着きましたって。ダイジョブ? Are you OK?」
森村に顔を覗き込まれて、良太は慌てて頷くと車を降りた。
ゴミ袋を燃えるゴミの場所に持って行くと、「お疲れさま。どうする? 車、乗って帰る?」と良太は森村に聞いた。
腕時計で時間を見た森村は、「まだ、地下鉄動いてるし、地下鉄で帰ります」と言った。
「そっか、じゃ、お休み」
「おやすみなさい」
良太はエレベーターへ向かおうとして、地下鉄の方に行きかけた森村がまた戻ってくるのを見た。
「忘れ物?」
「あの、………さっきちょっとそば通った時聞こえたんですけど、水野さん、お母さんのことで工藤さんに相談してたみたいですよ」
「え?」
ぽけっと突っ立っている良太を残して、じゃ、と森村は踵を返し、地下鉄の入口へと走って行った。
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