「………何?」
エレベーターを降りて自分の部屋のドアを開けながら、良太は首を傾げた。
何でわざわざ戻って来て、森村はあんなことを良太に話したのだろう、と。
俺が水野さんと工藤のことを気にしてるの、わかった?
って、あ…………。
猫たちをモフモフしながら、良太は一つの答えに突き当たる。
ひょっとして、俺、今日、工藤のことばっか気にして……。
この間の首の痕の件とつなぎ合わせて、良太の迂闊な行動から森村は相手が工藤だと気づいたのかも知れない。
水野さんのこともわざと聞いた?
「うううう………」
良太はカッと頭に血が上って言葉にもならないような声を出し、しゃがみこんだまま、今度は自分の頭を掻きまわした。
まあ、いずれ知れるのも時間の問題だ。
オフィスではアスカなど、あからさまに口にしていることだし。
どうやら森村は何の偏見もないようだが、後輩にあたる森村に心配されるようでは、全くもって面目が立たない。
「けど、波多野さん、モリーに何も話してないんだ」
あの人は工藤さえ守れたらいいわけで、どうせ俺のことなんか問題にもしてないんだろうけど。
工藤に差しさわりがあるようなことはするな、とか言う人だし。
どうせね。
鴻池にしても、波多野にしても、あの魔女オバサンにしても、大事なのは工藤だからな。
ま、俺だってそうだし?
ってか、あいつらの誰よりもだからな。
工藤に危害を加えたり、工藤の仕事の邪魔をするようなヤツは、蹴り飛ばしてやる。
っつう、気概だけはあるんだけどな。
寝込んだりしてちゃ、ザマないよな。
良太はしばし、おもちゃで猫を遊ばせると、ようやく立ち上がって風呂に湯を張りに行った。
「寒い日はやっぱ風呂に限るよな!」
バスタブに身体を沈めて、良太は一人呟く。
それなりに、工藤が俺のこと、大事にしてくれているのはわかる。
でもそれはあくまでも、会社の担い手の一人だからで。
俺はたまたま、この部屋を使わせてもらっているけど、モリーが俺より早くこの会社に来ていたら、ここを使っていたのはモリーだったかもしれないし。
俺だけじゃなく、鈴木さんのことも平さんのことも、みんなのことを、工藤は思ってくれてる、ってのはわかる。
クリスマスに、カフスなんかもらった時は舞い上がっちまったけど、俺がいつもお中元とお歳暮、やってるからで。
「いけね~、ネガティブくんやってる場合じゃないってばよ」
またいつものぐるぐる思考で頭が一杯になった良太は、湯から上がってビールでも飲もう、とバスルームを出た。
途端、炬燵にいる人影に、良太は驚いてバスタオルを落としそうになった。
「うわお! いきなりいるし!」
「灯りがついてたからな。おでんでも食うか? 弁当だけじゃ足りんだろう」
工藤の前にあるおでんがいい匂いを放って、良太の鼻孔をくすぐった。
back next top Novels