春立つ風に241

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 ひっくり返されて、抱き込まれるように身体をつながれ、またぞろ追い上げられて良太は荒く息をつぎ、意味不明の単語を羅列しながら、工藤の背中にしがみつく。
 心の奥の方で、この腕がなくなるのは絶対嫌だと叫んでいる。
 そんなのは怖い。
 水野の母親が危ないらしい。
 さっきの工藤の言葉が脳裏に蘇る。
 いろんな人間のイメージが交錯する。
 工藤が危ないってよ。
 工藤って?
 何それ?
 ウソだ!
 嫌だ!
 熱に浮かされたように、良太の頭の中が混乱している。
「……やだ……!」
 はっと目を開けると、工藤が覗き込んでいた。
「どうした?」
 工藤の指が良太の頬を拭う。
 わけもわからず泣いていたようだ。
「行くなよな………」
 わけのわからない言葉をぶつける良太に、工藤は苦笑する。
 工藤の唇が良太に重なる。
 深く舐るような工藤のキスは良太の混乱した感情の塊を払拭していく。
 自分が病に倒れたりすることが、これほど良太の心をかき乱してしまうとは、工藤も思わなかった。
 自分のことは自分だけでわかっていればいいと、ずっとそうやって生きてきた。
死ぬのすらもひっそり一人でいいと。
 自分のことが誰かに影響をもたらすとは、思ってもみなかった。
 少なくとも、ちゆきが逝ってからはそうだった。
 だが今回、工藤は思い知らされた。
 己の心の奥で、良太をもう手離したくはない自分が大きくなっている。
 まあ、さっきロケ現場で宇都宮と親し気に話していた良太を見て、つい、呼びつけてしまったのは、軽い嫉妬からくる嫌がらせだが。
 仕事をセーブするとか、ほとんど初めてじゃないのか。
 良太が寝込んだのを機に、工藤は取ろうと思っていたアポを後回しにした。
 とりあえず、良太が、それにみんなが行きたがっている軽井沢に行くことを優先した。
 石川が言った、少しギアを緩めろ、という言葉がやけに頭に残っている。
 その子のためにもな。
 わかった風なことを言いやがって。
 ワイフに逃げられたくせに。
 まあ、それであいつも学んだ口か。
 愛しいと思う存在がまた俺の前に現れるとは、オヤジにもなってみるもんだ。
 良太の寝顔を見つめながら、工藤は一人嗤った。
 最近毎日同じ時間に目覚ましが鳴るように設定している携帯のけたたましい音楽に、良太はむっくりと身体を起こした。
「うるさいぞ、何だ、その音は!」
 隣で工藤が文句を言った。
 起きられない時にはこれがいいよ、と教えてくれたのは直子だ。
 直子の好きなメタルのBlitzkriegなる曲だ。
 ギンギンのギターから始まるこの曲は、確かに否が応でも起き上らざるを得ない。
 


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