春立つ風に243

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「歩いて五秒だろ」
 良太は眉を顰めてコーヒーを飲む。
 壁をぶち破るとかそんなことを工藤が本気で考えているわけではないとは思うが、もしこの先、工藤に誰か別の相手ができたらどうすんだよ、と良太は心の中で文句を言う。
 俺は仕事して返済しなくちゃならないんだから、もしそうなってもここには居座るからな。
「東洋商事?」
「ああ」
 工藤はコーヒーを飲み干すと立ち上がった。
 東洋商事、美聖堂、とスポンサーを回って、映画のミーティング、その後MBCでの会議がある。
 美聖堂の斎藤とのアポの前倒しをしてもらったのは、明日、良太が一緒に行きたがっていたからだ。
 どうせなら月曜、休みにするか。
 鈴木さんは遠慮して行かないようだが、だったらゆっくり休んでもらうのがいいだろう。
 まあ、一緒に行ってもなんだかだとみんなの世話を焼くことになりそうだからな。
 五秒もかからないくらいだが。 
自分の部屋に戻った工藤は、着替えて身だしなみを整える。
「ったく、バスローブで行き来とか、まるで間男かなんかじゃないか」
 やっぱり壁をぶち抜くか。
 良太の思惑とは裏腹に、工藤は携帯で業者を呼び出した。
 

 小笠原は美亜と一緒にもう四時にはオフィスに顔を出した。
 キャリーケースの中からカラフルなウエアを良太に見せてくれたが、明らかにペアルックに見える。
「すっごい楽しみ!」
 窓際のソファに並んで座って美亜も喜んでいるので、良太もまあいいか、と二人を見やる。
 そこへアスカと秋山が現れた。
「やだ、まだ良太用意してないの?」
 良太はここまでやっておきたいとひたすらキーボードに向かっていた。
「そういうアスカさんもスキーに行く服装じゃないですけど」
 スタイリッシュなワインレッドのワンピースにピンヒールのブーツ、フェイクファーのコートを羽織ったまま、アスカはソファに優雅に座った。
「だって、別荘行くんだもの、向こうで着替えるわよ」
「その分、荷物が増えるんだけどね」
 秋山が嫌味なく言った。
 やがて参加する面々が次々にやってきた。
 買出しに行っていたモリーは、牧を連れて戻ってきた。
「よろしくお願いします」
 いつも礼儀正しい青年だ。
「車、おかせてもらっていい?」
 宇都宮も黒のセーターとパンツにハイカットブーツで颯爽と現れた。
「お疲れ様です。大丈夫です」
 佐々木と沢村は、沢村の車で行くと言っていたし、直子はプラグイン組と一緒に行くらしい。

 


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