春立つ風に27

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 千雪はテレビをあまり見ないらしく、俳優やタレントなどには疎い。
 原作があるドラマのキャスティングなどには原作者が意中の俳優を押してきたりすることも多いが、千雪はとにかくこっち任せ。
 つまり俺任せ。
 脚本家の久保田や監督の山根もこれまで通り良太に丸投げ状態。
 ったくどいつもこいつも、溜息くらいつきたくなるってもんだ。
「いいんじゃない? このラインナップで。さすが良太ちゃん」
 良太が皆に渡したキャスティングのリストを見ながら、久保田が歓声をあげた。
 久保田と山根に続いて千雪が現れ、窓際の大テーブルで『今ひとたびの』のミーティングが始まったのは午後一時過ぎ。
「うんうん、良太ちゃんにはいつもながら」
 鈴木さんが出したコーヒーを飲みながらざっと目を通しただけで、山根も久保田に同意を示す。
「千雪さん、どうですか?」
 山根が言った。
「俺はちっともわかれへんから、お任せします」
 千雪はいつもと同じで、ただ顔を出しただけだが、たったか三人の了承を得てミーティングは終わり、山根と久保田はそそくさと帰って行った。
「交渉はこれからなんですけどね~」
 二人がドアから消えていくのを見ながら、良太が呟いた。
「メインはもう押さえてあるんやろ?」
「ええ、竹野紗英。あとはレギュラー陣でアスカさんと部下の刑事役で尾高慶。まあ他のキャストも、こんなことだろうと一応打診はしてあるので」
 すると千雪はくすりと笑う。
「結局良太の思いどおりやん」
「千雪さん、竹野さんとは初対面でしたっけ?」
「当たり前や。この人、人気女優さんなんやろ? ようこんなドラマに出るな」
 千雪はリストにある画像を見ながら言った。
「こんなドラマとか、言わないでくださいよ。そこそこ人気あるんですからこのシリーズ。
ってか、竹野さんがこのドラマとかのファンらしくて、出たいって言ってたからダメモトで声かけたけらOKでちゃって。やり繰りして出てくれるってことになったんで、工藤さん、竹野さん級の女優さん出演させるってことで記念番組に仕立てて、スポンサーを煽ったと」
 千雪は、フーンと頬杖をついていた。
「そうやって、良太も工藤さんの後を追って業界筋に毒されていくわけやね」
「だから、そういう言い方やめてくださいってば」
 良太が言い返しても、千雪はてんで相手にしない。
 小林千雪といえば、もじゃもじゃ頭に黒縁メガネ、ジャージの上下で冴えない出で立ちで変人として知られる推理小説家だが、実は超美人で、高校時代まで女子に追いかけられ過ぎてT大進学と同時に大学生デビューしたという風変わりな御仁だ。
 裏の顔を知っている青山プロダクション関係者の前ではめんどくさがって本来の千雪で動いているのだが。

 


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