法学研究室助教として籍を置く大学内では、未だに臭そうネクラおたく云々と言われるのを本人は面白がっていて、講義以外ではなりを潜めているが、実際はクールな毒舌家だ。
「竹野さん、小林先生に逢いたがってるんですよね」
「気ぃ強い女優とか、アスカさんだけで手一杯や」
「はあ、でもどこかでちょっと顔合わせはしていただきますから」
すると千雪は怪訝そうに良太を見つめた。
「やっぱ工藤化が進んどるわ、良太、その否応なしな言い方」
「否応なしは千雪さんじゃないですか。ま、とにかくよろしくお願いします」
千雪と言い合いをしているとそのうちけむに巻かれるのが落ちなので、この辺できっぱり言っておかなくては。
「このあと、超難題が待ってるんで」
『今ひとたびの』のミーティングはあっけなく終わったが、問題はむしろこっちだろう。
「なんやね? 超難題て」
大久保らが帰った後で鈴木さんが三個しかなかったの、と冷蔵庫から出してきたプリンをしばらく堪能していたふたりだが、思い出したように千雪が良太に尋ねた。
「ほら、研二さんにも出演依頼しているドキュメンタリーですけど、初釜の時、打診してた佐々木先生。これからご自宅に伺うことになってて」
そういうと、良太はまたはあ、とため息をつく。
「ああ。怖そなオバハンやったなあ」
呑気そうに千雪がのたまう。
「他人事なんだから」
「そら他人事やわ」
千雪はくすっと笑う。
「俺はオバハンと人気女優なるシロモノにはなるべく近寄らんことにしとるんや」
「何ですか、それ」
良太は軽く千雪を睨む。
「良太なんか、あちこちで可愛がられとるやないか。脚本家とか監督とか」
「巧いこと丸め込まれて丸投げされてるだけですって」
のどかにそんな会話をしているとドアが開いた。
「行くぞ」
横柄な言葉と同時に入ってきたのは綾小路京助だ。
青山プロダクションのメインスポンサーである東洋グループ次期CEOの綾小路紫紀の弟でイケメンの部類だが不機嫌じゃない顔を良太はあまり見たことがない。
というより、千雪とともに警視庁捜査一課の渋谷刑事らに手を貸して難事件を解決したことがあり、千雪の相方として巷では知られている。
「最近京助、GLBいうSUV買うたんで、乗り回しとうてしゃあないんや」
「へえ、カッコいいですね」
良太はちょっと羨まし気に言った。
ベンツのSUVタイプで、遊びだけでなく実用的でもある。
会社のというか工藤の車を自分専用のように乗り回している良太にしてみれば、いいなと思う車はあるが、自分用にわざわざ買おうという気にはならない。
「おい、また二月の初めあたり、スキー合宿やるぞ」
千雪を促してオフィスを出て行こうとした京助が振り返って良太に言った。
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