ちょうど同じ頃、やはり業務を請け負っていた制作関連会社の社長猪野が倒産の上にかなりな負債があり、社員の給料の心配をして自死したばかりで、工藤は彼らの助けにならなかったことを悔やんで、一時期制作会社に仕事を回すためにむやみやたらに仕事を入れて東奔西走していた。
「相田さん、暮れの忘年会の時もやる気満々って感じでしたよ」
忘年会で、相田は良太を捕まえて、工藤には足を向けて寝られない、などとこそっと口にした。
別の何かと間違われそうで使いたくはないが、制作会社などはみんな、ある意味工藤ファミリーだと、そんな時、良太は思うのだ。
今の工藤はあの時ほどではないものの、オーバーワークもいいところ、なのが通常の毎日だ。
それなのに、鴻池のやつ、工藤を勝手に働かせるなよな!
と、鴻池に対する静かな怒りが良太の心の奥には燻っていた。
「関東エクスプレスの方は、じゃあ、プラグインの河崎さんに任せて、京都に戻るんだ?」
「明日の午後には戻る。日比野も浅沼も最後の詰めでカッカきてるからな。檜山もスケジュール度外視して入れ込んでいるが、舞台もあるし、限りがある」
能楽師の檜山匠は、最初は傍観者的な立場で自分の役割をやっていただけだが、段々創り手としての意見をきっちり言うようになり、何度リテイクしてもより高みを追求する姿勢は監督の日比野や脚本家の浅沼のみならず、主演の志村や演者、クルー全体にも波及した。
「匠ってほんと突き詰めちゃう感じだもんな、ホンモノのアーティストっての?」
感慨深げに良太が言うと、工藤はまたせせら笑う。
「何だよ! またバカにしやがって」
「お前にそんなことを言われたら檜山も本望だろうって話だろ?」
良太は工藤をひと睨みすると、グラスに残っていた酒を飲み干した。
「あ、もう、こんな時間だ、明日はあの、東洋商事の怖あいオバサンが待ってるんだから、もう寝ないと」
東洋グループのCFプロジェクトの打ち合わせがいよいよ明日の午後に控えていた。
関西タイガースの人気スラッガー沢村をイメージキャラクターに起用した割と大掛かりなもので、明日の打ち合わせには東洋グループの重役らも顔を揃える。
そのメンバーの一人が、宮下東洋商事営業第一部本部長で、昨年、東洋商事のCFにいちゃもんつけた、一見優し気でその実怖い年配女性だ。
「午後からじゃなかったのか?」
「そうだけど、行く前にきっちり必要書類整えとかないと、あのオバサンに何突っ込まれるかわかったもんじゃない」
「ほう?」
工藤は他人事のような顔でニヤリと笑う。
「じゃあ、まあ、寝るか」
「そう、って、ちょっと!」
良太の腕を掴んで工藤は立ち上がる。
「俺、寝ないと…」
「だから寝るんだろ?」
ベッドの上にばふんと良太を転がして、工藤は覆いかぶさった。
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