春立つ風に46

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 東洋商事サイドからは二、三発言があったようだが、その中には案の定宮下の意見も入っていたものの、良太の説明に関しての突っ込みはなかったので、良太は胸を撫で下ろした。
 会議は二時間ほどで終わり、会議室を出ると「佐々木さんには沢村くんの魅力を最大限に発揮してもらわないとね」などと言っている藤堂の後ろを良太はトボトボと歩く。
「広瀬さん」
 その時、背後から女性の声が良太に飛んだ。
 良太は咄嗟に心臓が飛び上がった気がした。
「はい」
 そんな心の内を微塵も顔に出さないようにと自制しつつ、良太は振り返った。
「先だってお目にかかった際は失念していて失礼しました。工藤さんのご活躍、伺っております。工藤さんとは同じ宮下研究室のOBなんです。広瀬さんも?」
「あ、いや、ゼミは違います」
「そう、でも工藤さん、心強い方がお入りになってよかったわ。よろしくお伝えください」
「はい、ありがとうございます」
 内心は緊張しまくりで、それでも辛うじて受け答えをした自分を、良太は褒めてやりたいくらいだった。
 去っていく宮下のきりりとした後ろ姿をぼんやり見つめていた良太に歩み寄ったのは紫紀だった。
「いや、ここだけの話、何とか無事、うるさ方のご機嫌を損ねることなく次へ進めることになってホッとしたよ、良太ちゃん」
 ホッとしたのだろうことは良太ちゃん呼ばわりでわかる。
「いやもう、ここだけの話、宮下本部長に名指しされた時はどうしようと思いました」
 紫紀は笑い、「なかなか宮下さんに難癖付けられないようにするのって、至難の業だから、良太ちゃん、一目置かれたよ、きっと」などと言う。
「冗談やめてください、俺、もう………」
 いや、それは言っちゃいけない、と良太は口を閉ざす。
「期待してるから」
 ポンと良太の肩を叩き、「沢村さん、藤堂さん、佐々木さん、とにかくよろしくお願いします」と言いおいて、紫紀はエレベーターホールで四人を見送ってくれた。
 四人はロビーまで降りると、駐車場へと向かうエスカレーターに乗った。
「しかし………」
 藤堂は車の前まで来ると、堪えきれないといったようすで、急にクククっと笑いだした。
「良太ちゃん、さっきの演説、よく咄嗟に切り替えたよね、おばあさん」
 良太は、えっと驚いて藤堂を見た。
「宮下本部長のことオバ…」
「ちょっと、なんでわかったんですか!」
 カッと熱くなって、良太は思わず声を上げる。
「いや、俺もさ、宮下さんアラフィフだけど年とかじゃなくてさ、帰って浩輔ちゃんに、すげえオバサンがいてさ、なんて話しちゃってて」
「そうそう、俺も、クソババア呼ばわりしてたし」
 佐々木までもが笑う。

 


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