春立つ風に47

back  next  top  Novels


「俺、工藤さんに、宮下って怖いオバサンが文句言ってくるとか話してたら、大学の先輩だとかで、オバサンオバサン言ってると面と向って云っちまうぞ、なんて言われて、ホントに言いそうになっちゃって、呪いですよ呪い! 心臓飛び出すかと思いましたもん」
「そのポーカーフェイスがマウンドで使えてたら、もちっと俺から三振取れたかもだな」
 沢村がしれっと言うのに、うるさいよ、と良太は返す。
「会議の時なんかに、喜怒哀楽出してたらバカにされるだけだって、世間の荒波に揉まれて学んだんだよ!」
 揉まれたのは特に鬼の工藤にだが。
「けど、あの宮下本部長に一目置かれるって、良太ちゃんさすが! 大学の先輩後輩ってのは強みだよね」
「やめてくださいよ! お陰でメガトン級の重荷が肩にのしかかったみたいで、大体、あの大学出たエリートとかと一緒にしないでくださいよ。俺、ホント、野球しかやってなかったんで過度な期待されても……うう、どうしよ……」
 呑気な藤堂の発言に、良太は訴えるように言った。
「頼もしいやん、良太ちゃん。大船に乗ったつもりで頑張るで」
 こちらものどかな調子で佐々木がにっこり笑う。
 沢村はそんな佐々木に寄り添うようにして、さり気に佐々木を見ていた。
 二人がつきあっていることは、身近な人間たち以外には絶対知られてはならない、と、佐々木は思っている。
 佐々木は相手が男だからということだけで、マル秘扱いしているわけではない。
 あくまでも沢村智弘というプロ野球の人気スラッガーと沢村のファンのことを考えているが故だ。
 沢村の方は、ちゃっかり佐々木の母親、例の厳しい茶道師範佐々木淑陽先生に、付き合ってます宣言をしたりと、突拍子もない行動に出て佐々木をやきもきさせている。
 シーズンが始まったらまた会えない日々に突入するし、オフの時くらいは会えるだけ会いたい、という沢村の気持ちは良太にもよくわかる。
「皆さんのスケジュールを踏まえて、制作工程表を早急にお知らせします。佐々木さんが創ってくださったプランに従って、来週早々には撮影に入りますので、よろしくお願いします」
 良太の締めの挨拶を合図に、佐々木は藤堂の車できていたのだが、沢村がさっさと自分の車に連れて行く。
 良太からすれば、何だかだがあるにせよ、いつの間にか見つめ合っていたりする二人が羨ましかったりするくらいだ。
 マル秘というのなら、良太は妹にさえ工藤とのことははっきり話せないと思っている。
 公にはしないものの沢村と佐々木のような恋人同士とも言えない関係だからだ。
 ま、いいや。
 それこそ千差万別、カテゴライズする必要もないわけで。
 良太は一つ溜息をついて、二台の車が出て行ったあとから、ハンドルを切った。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます