『ギャット』で『貴様と俺と』の撮影が始まったのは、翌週水曜日の夜のことだった。
局内の会議室で月曜日に顔合わせをしてから一日しか経っていないが、何せ出演陣はスケジュールがタイトだ。
「噂には聞いてたけど、いいよね、ここ」
月曜日から東洋グループのCM撮影の立ち会いやらこのドラマ関係やらで走り回っている良太は頭の中がパンク寸前で、ほんわかムードで良太に話しかけてくる宇都宮が清涼剤な気がする。
「でも、さすが、よくそろえたね、あのメンツ」
休憩中に話しかけてきた宇都宮はにっこり笑う。
「南雲さんに奥寺さん、しかも川野さんが俺の恋人役って最高」
宇都宮は感心しきりで首を横に振りながら笑った。
「たまたま、あいてたみたいで、皆さん」
ドラマは外科医で格闘技の達人椎名尊と破天荒で掟破り常習の刑事小椋壮太が事実上のバディを組み、事件を解決していくというアクションありラブありの娯楽作品だ。
小椋の上司にあたる警視庁捜査一課和泉班班長和泉警部と椎名は幼稚園からの幼馴染で、このバーで再会するがツンデレな和泉とはなかなか進展しない、陽気でヘタレで惚れっぽい小椋はフラれては相手が毎回変わるという使い古されたベタな設定だが、坂口の言うには娯楽に徹したい、だ。
「ほんと、川野さん、素敵な方ですよね」
良太はマネージャーと話している川野の笑顔には癒されるな、などと見つめた。
「しかし、顔合わせの時も良太ちゃん受難だったねえ」
「いやもう、その話はいいですから」
またしても宇都宮に話を蒸し返されて良太は軽く抗議した。
月曜日、江の島で沢村の撮影が始まるまで立ち会っていた良太だが、午後イチでこのドラマの顔合わせのために、藤堂に後を任せて東京へと車を走らせた。
その際、事故でう回路を取らざるを得なくなり、思った以上にテレビ局までが時間がかかり、ギリギリ五分前に会議室に駆け付けたのだ。
「ああ、きたきた、こっちこっち」
会議室のドアを開けて待っていたらしい男が良太を見て手招きした。
「あ、はい」
局側の人間だろうかと思いながら髭をたくわえた男の後に続いて良太は会議室に入る。
「すみません、遅くなりました」
坂口や局側のメインプロデューサー西方、そして宇都宮や小笠原とともに、大物俳優陣が並んでいる。
「もちょと、丁寧に挨拶しないと、やっぱ新人俳優さんは大御所さんより前に来ないとさ、ハラスメントじゃないよ? 礼儀の問題。あれ、でも真嶋くん、ひとり? マネージャーは?」
思わず良太は「は?」と男を見た。
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