春立つ風に49

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 真嶋悟はこの『ギャット』ドラマ中は『キャット』のイケメンスタッフという設定であるが。
 途端、坂口がげらげら笑いだし、宇都宮や小笠原までが笑っている。
「えと、すみません、青山プロダクションの広瀬です………が」
「ええ?! 」
 今度は男が大仰に声を上げた。
「ウッソ! 真嶋くんちがうの? だって、小顔で脚長くて甘いイケメンって………」
 この場では限りなく有難迷惑的な感想に苦笑いする良太に、「や、そう思うだろ? マジ、良太ちゃん、このまま出演しようよ」などと坂口が調子に乗って大声で喚く。
「失礼します」
 ぺこりと頭を下げて、良太は制作陣の末席に向かう。
「や、俺、真嶋くん、顔知らなくて、先日制作部に異動になった清水です」
 初対面だから良太の顔を知らないのも頷けるが、何で俺が、真嶋だよ、と良太は心の内で憤慨していた。
 真嶋は今売れっ子街道まっしぐらで、CMの撮影が長引いてと、五分ほど遅れてやってきてマネージャーとともに深々と頭を下げた。
「坂口さん、良太ちゃんをドラマに引っ張り込むの、まだ諦めてないからね~」
 宇都宮は思い出し笑いをする。
「冗談じゃないです」
 視線の先に、当の真嶋を見つけた。
 二十二歳の真嶋は、若手から中堅どころの人気俳優が所属するトワイライトという事務所の新人で、マネージャーがしっかりついていろいろと教え込んでいる。
 新人なら当たり前だろうが、今は落ち着いたものの、人気が先走りして引っ張りだこだった割に、マネージャーに恵まれずに一人で懸命に動いていた本谷和正の姿が真嶋にかぶってみえた。
 つい、あいつ、元気でやっているんだろうかと思ってしまうのは、ちょっと良太にもわけありだったからだ。
 実は、ドラマの撮影の最中に、工藤に本谷が告っているところに、良太はたまたま居合わせたことがあったのだ。
 場所はトイレで、良太は個室に隠れていたから、二人とも良太に聞かれたことを知らないし、良太も二人には口にしていない。
 本谷本人は、人間的にもいいヤツだったので、良太としては複雑な胸中だったのだが、撮影が終わり、打ち上げを最後に、本谷とは会っていないというより、仕事が終われば約束でも取りつけない限り会うこともないだろう。
 工藤に、お前の気持ちにはこたえられない、と言われた本谷の思いが切なくて、良太は我がことのように身につまされた。
 その時、工藤が、付き合っているやつがいる、とでも言ってくれていたら、良太もグダグダ考えすぎたりしなかったかもしれないし、まあ、それももう済んだことだが、ただ、本谷は工藤への思いを消化したのだろうか、と。
「工藤さんは京都だっけ?」
「ええ、撮影ラストスパートで」
 すると宇都宮は、良太の頭にポンポンと手を置いて、トイレ言ってこよ、と背を向けた。
 え、何? と良太は小首を傾げる。 

 


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