春立つ風に54

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 あんたに、良太ちゃん呼ばわりされるいわれはないって。
 明らかにバカにした顔で海老原は見下ろしている。
「仕事で重宝がられているだけですよ」
 とりあえず無難な言葉を返すと、良太は真嶋のようすが気になって探した。
「撮影が終わったら飲みに行こう」
「は?」
 脈絡のない発言に、良太は真嶋から視線を海老原に戻す。
 この人暇なのか?
「すみません、予定通りに終わるかどうか」
「じゃ、明日」
 じっと良太を見据えて、海老原が言った。
 この人、強引でかなりしつこいタイプだよな。
 しかも思い通りにならないと気が済まない系。
「その時になってみないと、時間がはかれませんし、まず真夜中に突入します」
 一応、店舗をお借りしている側としては、ビシバシお断りもできない。
「フーン、じゃあ、連絡入れるよ。開いてる店に行こう」
「はあ」
 ったく、何なんだ?
 この人と話しても最後には口論になりそうで、悪酔いしそうだ。
 良太は断る理由を思いめぐらすが、生憎、こういう時に限って浮かばない。
「え、深夜でも開いてるとこ、知ってます? 俺も一緒にいいですか?」
 と、そこへ、聞きなれたバリトンが割り込んだ。
「ここはきっちり零時までなんですよね? いつもは」
 気さくに宇都宮は海老原に話しかける。
「そうみたいですよ。オーナーといっても引き継いだだけで、もともとこの店は前のオーナーやバーテンダーの楢木が築き上げたもので、俺は一切手を加えてないんで」
「そうなんですか」
 フーン、と良太も頷いた。
 この店は既に完成形だったわけで、無暗に手を加えるような無粋なマネはしないだけ見る目はあるということか。
 ともあれ、宇都宮は良太にとっては有難い助け船だった。
 いや、ひょっとして宇都宮さん、そこんとこわかってて割り込んだとか?
 あの人、何にも考えてないって顔して、実は色々よく見てるからな。
 それにしてもこの二人が並ぶとイケメンガチバトルって感じ?
「今夜はちょっと零時越えしそうだよね」
 宇都宮は良太を見た。
「そうですね。初日だし、どうしても模索的なところが多くなるでしょうし」
 坂口ではないが、ガチガチになっている真嶋が、さっきのことで余計に硬くならなければいいけど。
「じゃあ、良太ちゃん、明日、連絡入れます」
 海老原は良太の返事も聞かず、そう言うとたったか帰って行った。
「大丈夫? 良太ちゃん」
 よほど嫌そうな顔をしていたのか、宇都宮が苦笑している。
「ああ、いえ、大丈夫です」
「あの人、どういうシーンでも結構強引で有名らしいから」
「え、有名って」 

 


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