「いやもう、俺、体力限界で」
「まあ、あんまり考えすぎるなよ? んじゃ、明日」
良太が苦笑を返すと、坂口と溝田はあの店へ行くかというようなことを話しながら店を出た。
その横でスタッフはてきぱきと片づけを済ませている。
「お疲れ」
声を掛けられてあれっと思う。
「最後まで頑張るね」
帰り支度をした宇都宮が一人立っている。
「それはこっちのセリフですよ。あれ、田之上さんは?」
「帰った。彼、ああ見えてお子さんがまだ小さくてね」
こういうところも懐が広いというか、何も考えてないというか。
いよいよ制作陣が引き上げると、最後の最後まで待って鍵をかける楢木に挨拶をして良太は宇都宮と一緒にエレベーターに乗った。
「それで? 工藤さんが海老原さんに引導を渡したって?」
「俺、工藤さんとか言ってませんけど」
やっぱ、工藤ならあり得るってわけだよな。
「人気があるからっていい気になるなとか、俳優にはバタ臭すぎるとか使いづらいとか、新人で意気揚々とやってる時にそんなこと言われたら、萎みますよね、普通」
「ははあ、工藤さんなら言いそうだよな」
宇都宮は笑う。
「俺が代役でちょっとやった時なんか、こいつに商品価値なんかない! ですよ? 普通なら会社なんか飛び出してますよね。あいにく、入社した頃からお前の頭にはヌカミソでも詰まってるのかってな感じでガーガー言われてますからね。今さら商品価値がどうのとか言われたところで」
良太は肩をすぼめる。
「前なんか、俺の好きな女優さんに、幼稚園のお遊戯からもっかいやり直した方がいいんじゃねーのか、なんて言いやがる……言うもんだから、思わずニンピニンっていってやったんですよ」
宇都宮は声をあげて笑う。
「まあ、今はパワハラとかって突っ込まれそうですけどね~」
「俺、同年代でラッキーってとこ? 工藤さんに会ったのって、デビューして割と経ってからだし」
「宇都宮さんにダメ出しとか、ないでしょう、いくら工藤さんでも」
「ダメ出しなんか数えきれないよ?」
「えええ? そうなんですか? ああ、でも、昭和のオヤジじゃないけど、ホントにやりたければそのくらい言われたって頑張るとは思いますけど。ほら、本谷さんとか、最初かなり工藤に言われたみたいですよ?」
「工藤さんには見えてしまうんだろうな。海老原さんの場合、時代が早すぎたって気もしないでもないけど、実業家の方が合ってたってことじゃないのかな」
確かに、最近のランドエージェントの業績を見れば一目瞭然というところか。
「でも、案外、工藤さんに言われたこと、実は根に持ってたりして」
「俺も、海老原さんに工藤の話を聞いた時は、あ、この仕事バツだ、とか思いましたもん」
「それがすんなり店を貸してくれたってことは、裏に何かあるとか?」
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