「ちょ、やめてくださいよ。ただでさえ、さっきも結構強引に飲みに行こうとか誘われたんですから。社長の仇を俺で晴らそうとか、冗談じゃないですよ」
良太は眉を顰めつつ文句を並べる。
「俺の車で送りましょうか?」
ビルの外に出ると良太は宇都宮に言った。
「ありがたい、と言いたいところだけど、良太ちゃん働きすぎ。タクシーを拾うよ。今夜は何も考えずに寝なさい」
宇都宮の優しい言葉に、「ありがとうございます」とぺこりと頭を下げる良太は、工藤もこのくらい言ってくれてもいいよな、とついつい思ってしまう。
ちょうどタクシーが停まった。
「じゃ、お気をつけて」
「良太ちゃんも。あのさ」
ドアが開いたタクシーに乗りかけて、宇都宮は振り返った。
「マジ、海老原さんと飲み行くんなら、俺も誘って? あの人、おそらく良太ちゃんにロックオンしてる」
「は?」
答えに窮している良太に微笑んで、宇都宮はタクシーに乗り込んだ。
タクシーが走り出すのを見ながら、良太は、「ロックオン?!」と思わず口にした。
全くもう、宇都宮さん、変な冗談やめてほしい。
何? 俺って、そんな、男に狙われやすいとか?
やめてくれええええ!
以前はボケっとしてたから、襲われかけたってこともあったにせよ………。
良太はしばしああでもないこうでもないと考えていたが、はたと帰らなくてはならないことを思い出し、駐車場へ急いだ。
翌日の撮影はさしたるトラブルもなく順調に行われた。
真嶋も何となく昨日よりしゃきっとして歩いている。
今夜はもう一人の大御所、奥寺達臣が加わり、撮影陣も背筋を伸ばしたように緊張感を伴いきっちりと仕事をした。
椎名と小椋の前に立ちはだかるラスボスという設定だが、滲み出るような威厳と眼光が積み重ねてきたキャリアを物語っているようだ。
カメラを離れると、奥寺は案外ざっくばらんな人で、豪快に笑う。
やっぱ大物俳優ってだけあると奥寺に感心していたその時、良太の上着のポケットで携帯が震えた。
良太は一端店を出ると、携帯に出た。
「撮影は問題ないか?」
工藤の声に、待ってました、と思わず良太は口にしそうになる。
何しろ今朝、目を覚ますと九時をとっくに過ぎていて、目覚ましを止めてまた少し寝てしまったらしく良太は慌てふためいて猫にご飯を用意し、ざっとシャワーを浴びて着替えると、サンドイッチをリュックに放り込んで、オフィスに駆け込んだ。
というのも、昨夜かなり疲れていたにも関わらず、海老原の誘いのことや宇都宮に、海老原にロックオンされていると言われたことで、くどくど考えて寝るのが遅くなったのだ。
ほんと、冗談じゃない、オバサンもごめんだけど、オッサンはもっとごめんだ!
つーか、オッサンなんか、一人で手一杯だっつうの!
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