春立つ風に59

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「え、ああ、いや、ドアップもどこかのドラマのパクリみたいな気もしますし、確かに奥寺さんがいかにも怪しいと思われるのもどうかと思いますし、かといってあまりに存在感を殺しているのも……だからアップとかじゃなくて、目線を合わせずにチラリとこの人何者? 的なカットを入れるとか」
 いきなり名指しされて適当なことを口にしたわけではないが、最近たまたまネット配信で見た凄腕のCIAが活躍する映画でのワンシーンを思い描いて、良太は言ってみた。
「ほう?」
 奥寺が良太を見据えた。
 げ、大御所さん、さすがに目線だけで気圧されるって。
「それ、いいですね、目線を合わせずにチラリ! それで行きましょうよ!」
 溝田もいい加減二人が揉めていると先に進まないので閉口していたのだろう、良太の発言に如何にも我が意を得たりといった風に撮影の再開を二人に促した。
「うーんまあ、いいだろう、その方が謎めいて見えるかも知れない」
 何と奥寺が頷いた。
「さすが、良太ちゃん! よし! その線で行こう!!」
 坂口も溝田に乗った感じで威勢よく声を上げた。
 は……………。
 適当なことを言ったわけではないが、何かしらもっともらしいことを言わないとこの場は収まらなかったというのが本音だ。
 要は、この二人、坂口と奥寺は今後もぶつかる可能性があるということだ。
 良太は撮影の成り行きを見ていたが、奥寺が、目線をカメラに合わせずに、それでも眼光がキラリというような動きをしてワンカット撮ると、その撮影シーンを再生して坂口、奥寺、溝田の三人で覗き込み、「いいんじゃないか」と奥寺、「なるほど、謎めいてみえるかも」とは坂口、「これ、決まってますよ!」などと溝田がのたまった。
「いやはやってやつだね~」
 良太の隣で宇都宮もコソっと言った。
「よくあの場面を収めたね」
「まあた、やめてくださいよ、いきなり坂口さんに振られて、仕方なくこないだ見た映画のカッコいいシーンの話をしただけなんですから」
「揉めてる二人がまともなこと言ったとしても互いに引くに引けなくなってたからね」
「せっかく順調に進むかと思ったのになあ」
 良太はぼやく。
「ま、でもさ、確かに最初のカットより良くなったよ。さすが良太ちゃん」
 宇都宮は良太の肩をポンと叩く。
「はあ」
 さっき喧々囂々だった坂口と奥寺は今はカラカラと笑っている。
 なーんか、この二人、古だぬきと古狐の化かし合いって感じだよな。

 


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