春立つ風に73

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 その夜の『ギャッツ』での撮影には野口がやってきて海老原は現れなかった。
 良太は内心ほっとして、よけいなことに頭を悩ますことなく見ていられた。
 今日は野口も一人だったし、良太は少し野口とも話したが、やはり海老原と比べるから余計穏やかでいい人に思える。
 休憩中、美亜も野口と話していたが二人とも楽し気に笑っていた。
 海老原が余計なことを言ってくれたので、つい気になってしまったのだが、あんなに仲が良さそうなのに、野口はゲイだから、美亜が好きでもどうにもならないということなのだろうか。
 俺が口出すことでもないけどさ。
 奥寺が坂口と口論していたが、工藤にいつものことだと聞いていたので、良太は放っておこうと離れてそれを見ていたが、これが必ず坂口が、「おい、良太ちゃん、どう思う?」とくる。
 で、仕方なく良太が二人の間に割って入るという図が幾度か見られた。
 奥寺だけでなく、宇都宮も小笠原もまた川野も納得いかないと撮影を止める。
 俳優陣もかなり真面目で真摯なので、そうやってよりよくしようという意気込みが感じられるし、三日目ともなると役柄に馴染んでいる。
 あの、小笠原がね~。
 良太は、つい小笠原が青山プロダクションに移籍したばかりの頃を思い起こして、成長したじゃないか、とまるで親のような目で見てしまう。
 撮影が少し早めに終わったので、例によって坂口が行きつけの店にみんなを誘った。
 明日はスタジオで午後からの撮影になっており、とりあえず『ギャット』での撮影は来週までない。
 坂口が野口にも声を掛けると、遠慮しようとした野口を美亜が一緒に行こうよとねだって、俳優陣、スタッフら総勢二十名ほどで行きつけのレストランバーへ繰り出した。
 良太も当然のように引っ張られたので、車はまた明日の朝にでも取りに来なくてはならない。
「そういや、竹野、また良太ちゃんのドラマに出てるって?」
 坂口が唐突に振ってくる。
「坂口さん、俺の会社がプロデュースしているドラマ、です」
「何でもいいやね、良太ちゃんかなり気に入られたもんな、竹野に」
 カラカラと笑う坂口に、「勘違いされるような言い方しないでくださいよ、話してみると面白いと思われただけです」と良太は返す。
「でも彼女、少し丸くなったよね」
 宇都宮が頷く。
「うーん、そんな感じありますね」
「良太、お前、片っ端から出演女優にとか、そんなとこまで工藤のマネすんなよな」
 既に結構飲んで酔っているのか、小笠原がケラケラと笑う。
「冗談じゃないです」
 からかっているのはわかっているが、良太はきっぱり返す。

 


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