「広瀬さん、皆さんに慕われているんですね。お若いのに、すごいって美亜から聞きました」
たまたま隣に座った野口にそんなことを言われて、良太は恐縮至極だ。
「いやとんでもない」
「そうそう、何か、海老原が広瀬さんにちょくちょくお世話をかけたようで、申し訳ありません」
「あ、いや」
「美亜から聞きました。海老原は仕事では申し分ないんですが、プライベートがちょっと難ありで」
「はあ……」
そうですね、とは今回さすがに良太も頷くこともできずごまかした。
「礼央は性格破綻者なのよ」
野口に寄り添うように座っている美亜が口を挟む。
「おいおい、そんなこと言わないでやれよ」
野口に窘められて、美亜は、「だって……」と口ごもった。
まるで美亜の影武者のようにマネージャーの水谷がぴたりと横に座っている。
海老原はまた海外のようだが、この兄妹と野口の間には、何か複雑なものがあるのかも知れない。
そんなことを考えていた良太は、ポケットの携帯が振動するのに気づいて、席を立った。
「良太?」
ドア口まで来て電話に出ると、京都で映画を撮影中の檜山匠の声がした。
「匠? どうかした?」
何だろうと訝しむ。
「ボスから何か連絡入った?」
「工藤? いえ、今日は何も」
「そうか」
嫌な予感は良太の胸を重くする。
「何かあったんですか?」
「うーん、そんなひどいんじゃないんだけど、今朝、工藤の車、後ろからぶつけられて」
「え? それで、工藤、怪我は?」
良太は全身の血液がスーッと下がっていくような気分に襲われた。
「あ、ああ、ベルトの跡がついたくらいで、今のとこ怪我はないみたいだけど。車は今修理に出したからレンタカー。あの車は頑丈だからそんなひどい壊れ方はしてないらしい」
「あの、検査ちゃんとしたんでしょうか? あの人、適当に済ませてしまうから」
「それはもう、正明がくどいくらい言って、病院で検査させたらしい」
ほんの少し、良太の胸のつかえがおさまった。
「後になってむち打ちとか、出てくる場合もあるし」
「まあ、それより、ぶつけた相手、チャラい上着着たなんかいわゆる三下ヤクザ風の男で」
良太にとってヤクザの三文字は耳にしたくないものだ。
それが現実に浮かび上がってくると、今度は良太の中でメラッと滾るものがある。
「わかりました。ちょっと気になるんで、こっちで考えます」
「ああ、多分、工藤、良太に心配かけないように話してないんだと思うけど」
匠は慌ててそう付け加えた。
「ありがとうございます」
ったく、こないだのことちょっと思い出してた矢先これだからな。
電話を切ると、良太は思わず拳を握りしめる。
それからすぐに千雪を呼び出した。
「あ、よかった、出てくれた」
「なんやそれ、俺がいつも居留守遣うとるみたいに」
「事実でしょ? ってそれより、すみません、さっきの話」
「さっきの話?」
「ボディガードの」
「なんや、やっぱお前、狙われとるんか?」
「違うんです、工藤が」
「え?」
良太はたった今匠から聞いた話をした。
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