「うーん、なるほど、まあ、陰の人もついてはると思うけど、念のために動けるか加藤に確認してみるわ」
千雪の言う影の人、密かに工藤のガードをしている波多野は、普段はMEC電機広報部長という肩書を持つビジネスマンだが、いざとなるとスーパーマンか忍者のごとくどこからともなく現れて工藤を護っている。
ただし、ホンモノのスーパーマンならいざ知らず、波多野といえど手が届かない場合もないわけではないだろう。
「すみませんが、よろしくお願いします。あ、ただ、ほんと遠くから観察するくらいで、危ないことは……」
「あいつらもそこいらへんは承知や。己は大事やよってな。また連絡する」
電話を切っても、良太は何やら落ち着かない。
工藤に罪を押し付けて刑務所送りにしようなどという事件もあったことだ、また何があるかわからない。
すぐにでも飛んでいきたい良太だったが、そこは何とか自分を抑えて冷静に動かなくてはと自分に言い聞かせる。
京都の撮影はあと一週間くらいのうちには終わる予定だが、徹底的にやりたい人達が集っているから、幾分の遅れは織り込み済みだ。
千雪の電話は時間を置かずにかかってきた。
「加藤が手配してくれるて、手の空いてるやつ」
「ありがとうございます」
電話を切って、良太はふうと息をつく。
店内に戻ると、休憩に入っていた。
「どうかした? 良太ちゃん。顔色よくないよ」
宇都宮が良太の顔を見て言った。
「あ、いや、平気です」
「平気って顔じゃないけど? また海老原氏関連?」
「いえ、そんなんじゃ」
「じゃなきゃ、何かあった?」
宇都宮にわざわざ話すことじゃないとは思うのだが、「大したことじゃ……、ちょっと工藤の車がぶつけられたみたいで」と、良太は口にした。
「え、工藤さん、大丈夫なのか?」
「ええ、別に怪我は……」
「そっか、でも心配だよな。仕事放り出して行くわけにもいかないし」
「あ、そんな、騒ぐほどのことではないので、すみません」
すると宇都宮は良太の頭にポンと手を置いた。
「いい方に考えようよ」
宇都宮の笑顔に良太は救われる思いがした。
「ありがとうございます」
坂口に呼ばれてゆったり歩いていく宇都宮の背中に良太は礼を言った。
「何、何、工藤の居ぬ間にうっちーと内緒の関係?」
急に横から囁きかけてきたのは小笠原だ。
「な、んだよ、変な言い方するなよ」
うっちーって。
「あの人、絶対良太のこと好きだよな」
また小笠原が良太の耳元で言う。
「座長だから色々気にかけてくれてるだけだ」
良太は訂正するが、実際、告られたこともあるなんてことは口が裂けても言うつもりはない。
あのあとも宇都宮は態度を変えることなく、良太を心配してくれたり、声をかけてくれたりする。
優しい人なのは確かだ。
けど、ちょっとでも京都行ければな。
良太の頭の中は段々そっちへ意識が飛びがちになった。
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