春立つ風に78

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「そらそうやろ。第一今の工藤さんにそんな暇あれへんし、言うに事欠いて三下ヤクザの女とか、ふざけるんもええ加減にせえや」
 フンと千雪は鼻で笑う。
「まあ、いかにもオツムの弱いやつの考えるこっちゃ。事実はそうなんやが、似たり寄ったりのアホ連中が、要はでっち上げの言いがかりをつけてきよったんや」
 良太はまたかと眉を顰める。
 昨年の秋も火のないところに無理やりありもしないことをでっち上げて、お陰で工藤は拘置所に入れられる羽目になったのだ。
 警察が工藤をちょっと何かあればすぐにでも逮捕しようと手ぐすねを引いて待っているという状況も工藤を不利にするわけだ。
「事実無根なのはわかっとっても、言いがかりで時間はロス、いい迷惑を被ることになるよって、工藤さんもキリキリしとるみたいや」
「当然、そうですよね」
 カッカと怒りで一杯になっていた良太も、今度はひどく冷静になり、その三下どもを何とかする方法はないだろうかと目に険しさを湛えている。
「すぐに小田事務所に連絡入れて、遠野さんや安井さんが駆け付けて、事実関係を調査しよるらしい」
「早いとこ、そんなザコの戯言なんかフッ飛ばしてもらいたいです」
 そう言いつつもどうしようかとまだ迷っていたところもあった京都行をすぐにでも決行したい気になった。
 しかし、見え透いた言い訳であろうと何であろうとかまわないが、京都行の理由をそれこそでっち上げなくてはならない。
 とどのつまり、時間が空いたので、陣中見舞いに来ました、くらいしかないだろうとは思っているのだが。
「辻が明け方こっちを出る言うとる。俺も行くつもりやから便乗するか?」
 あれこれとってつけたような言い訳を考えていた良太の思惑を見透かしたように、千雪がさらりと提案した。
「えっ? 行きます!」
 思わず声が大きくなってしまった良太は、鈴木さんに聞かれたかなとすぐに自重した。
「俺は今度のドラマに欠かせんもんが京都にあるいう理由で、京都に行くよって、良太はその俺に従ったいうことにすればええ」
 千雪の申し出はまさしく渡りに船だが、「でもドラマに欠かせないものなんて、ありましたっけ?」と一応確認してみる。
「お前、俺の原作読んだんやろうが。犯人が一時京都に立ち寄ったいうんがあったやろ」
「え、でもあれってせいぜい二、三行で、それも神戸、大阪、京都、名古屋って犯人が逃亡する過程のちょっとした説明文ですよね?」
 良太は怪訝そうに千雪を見やる。
「アホやな、最後に凶器のナイフが京都で見つかったいうことになっとるやろ」
「はあ、それも、京都府警によって捜索された結果見つかったって一行」
「やから、もうちょい京都に凶器を隠した理由付けを膨らますんや。しかも貴船神社やで?」
「はあ、そういえば………」
 原作では犯人が捕まった後で、供述によって捜索され、京都の貴船神社の境内で見つかったとダメ押しの文章になっているだけだ。
 


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