春立つ風に79

back  next  top  Novels


「幼い頃父親と住んだことがある貴船神社近辺は、今も犯人の心の拠り所やった、くらいなシーンを付け加えれば、犯人に感情移入できてドラマチックになるやろが」
 千雪がドラマに何か言ってくるというのは、未だかつてなかったことなので、良太はちょっと驚いた。
「千雪さん、やっとドラマ制作にも身を入れる気になってくれたんだ?」
「アホか。シーン云々は良太が思いついたいうことにしたらええんや」
「そういうわけにはいきません。思いついたのは千雪さんなんですから」
「フン、何でもええけど、とにかくや、そんなシーン、入れるか入れんか実際はどうでもええけど、貴船神社に行く理由がでけたやろが」
 そんなことまで考えてくれる千雪に、今さらながらに良太は頭が下がる思いがして、つい目頭が熱くなる。
「アホやな、泣くほどのことかいな」
「だって、作者に原作の内容を変えさせてまで……」
 うるっときた良太は言葉が続かない。
「何を言うとるんや。ただの思い付きやし、後になってまたやっぱあれはやめときますとか言うか知れんしな」
 千雪はフンと笑い、そんなことを言う。
「何でもいいです。それで何時にどこへ?」
「うん、まあ、横須賀三時くらいに出る言うとるから、四時までにはここに着くやろ」
「遠回りで申し訳ないです。途中で運転代わります」
 良太は恐縮する。
「うん、まあ、そん時はそん時で。辻もガソリン代安うあがれば有難いんやろ」
「ガソリンと高速代、俺が出しますよ」
「折半でええんちゃう? あいつも一応、一国一城の主になったし」
「そうなんですか?」
「前の会社の社長にも後押ししてもろて、円満独立したんや暮れに。ほんで年末年始は休みなしやったらしい。中古車売るだけやのうて、修理工場も併設してるて。いっぺん見に来い言われとる」
 それを聞くと、良太は訳ありの強面というイメージだった辻に近親感すら沸いてくる。
「へえ、俺んち、昔川崎で修理工場やってたから、何か懐かしい気がしますよ」
「そっか。ほな、今度行ってみよか」
「はい! ぜひ」
 今朝までは鬱々とした気分だったのが、少し浮上する。
「いずれにせよ、俺、一泊くらいしかできないし、あ、ホテル、取っとかないと」
 腰を浮かしかけた良太に、「え? 俺んちに来たらええやろ」と千雪が見上げて言った。
「え………でも………、背後霊は?」
「ああ、学会や。教授のお供で横浜」
「あ、そう、なんですか。でも、いいんですか?」
 京助がいないのなら泊めてもらえればありがたい。
 以前にも、良太は仕事で千雪の家に泊めてもらったことがあった。
 古い家だが、風情がある日本家屋だ。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます