「うん。倉永さんにはもう明日行く言うてあるから、着いたらすぐ使えるようになっとるはずや」
「よろしくお願いします!」
倉永は千雪が高校生の頃から小林家を切り盛りしてくれている家政婦だ。
千雪が東京にいる間も管理を任せている。
「猫の手さんらにも何か差し入れしますね」
「ああ、そら悦ぶわ」
「そういえば、猫の手さんら、どこに泊まってるんですか? ホテルとか手配しなくてもよかった?」
「あいつら、辻のダチんとこ転がりこんどるみたいやで? 好きにさせといたらええ」
「はあ、だったらいいんですけど、何でも言ってくださいって伝えといて」
「わかった」
千雪が帰ると、良太は超特急でデスクワークに取り掛かった。
「じゃ、お先に失礼します」
鈴木さんに声を掛けられて、良太はハッと顔をあげた。
「え、もうこんな時間? お疲れ様です」
「ちょっと紺を詰めすぎじゃない?」
「あ、大丈夫です」
へへへと良太は照れ笑いする。
「じゃあ」
鈴木さんはドアの方へ行きかけて振り返った。
「良太ちゃん」
「はい?」
「明日、留守にするんでしょ? 猫ちゃんたちちゃんとみておくから」
「え……」
今回は工藤にも内緒で行くつもりなので、鈴木さんにも迷惑を掛けないようにしようと一日出かけるとしか話していなかった。
出かける時にご飯を置いて、自動のご飯やり器や給水器で一日半ほど猫たちに我慢してもらおうと思っていた。
「遠慮しなくていいから」
そう言って帰る鈴木さんに、「ありがとうございます」と良太は礼を言った。
お見通しか、と良太は息をついた。
「よろしくお願いします、辻さん」
辻は千雪を乗せて午時四時頃青山プロダクション前に車を横付けした。
「また、カッコいい車ですね」
辻はちょくちょく車を換えるが、今回は白いBMWでかなり最新だ。
「なかなか乗り心地がええんや」
以前よりは短いが、相変わらず後ろで髪を結わえ、粋なスーツを着ている。
それでも髪の色が黒くなったのは、千雪の言う一国一城の主だからなのかもしれない。
サンドイッチやおにぎり、お菓子、ノンアルコールビールなどを買い込んだ袋とポットに入れた熱いコーヒーと一緒に、良太は後部座席に乗り込んだ。
「何か飲みます? 熱いコーヒーもありますよ」
「俺、飲みたい」
助手席の千雪が言った。
「あ、俺も俺も」
運転席の辻が振り返ると、良太は紙コップにコーヒーを注いで二人に渡した。
「疲れたら俺、運転代わりますから」
「おう、行けるとこまで行くわ」
辻はA級ライセンスを持っていると以前聞いたが、車もいいし、代わると言っていた良太はそのうちコクリコクリと眠り始めた。
「こいつ、相当疲れとるわ」
千雪はそれに気づいてクスリと笑う。
「フン、健気やね~、好きなオッサンのために」
バックミラーから良太をチラ見して辻は苦笑する。
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