「決まった相手は作らない主義だ。遊びならつきあうぞ」
「そうですか、残念。桜木さんのことまた愛してらっしゃるんですね。講義で拝見したビデオ、秀逸でした」
桜木ちゆきと小田、荒木、工藤は在学当時、宮島研究室のトップフォーと呼ばれ、切れ者集団として学内でも知られていた。
ちゆきと工藤は恋人というだけではない、模擬裁判などで丁々発止とやり合ったようすはビデオにも残され、講義においても使われたりしているが、そこにいるのが工藤高広であろうと若い後輩たちにはさして問題ではないのだろう。
MBCに入ってからも、工藤は亡くなったちゆきを忘れることはできず、付き合う相手は遊びでしかなかった。
柏木はそれ以後もたまに事務所の仕事でMBCで見かけたが、やがて父親の弁護士事務所を継ぐべく郷里の京都に帰ったのだと、風の便りにきいていた。
それでもMBCを退社して今の会社を興した頃は工藤も地に足をつけようともがいていた時期でもあり、そんな時付き合った山内ひとみとは、ひとみがブチ切れて振られるまで最長三カ月も続いた。
今ではお互い良くも悪くも戦友のような存在になっている。
柏木は、美しさは当時のまま、たまたま事故のことを事務所で聞き知り、暴力団と面倒なことになっているのなら手助けできないかと、訪ねてきたのだと言った。
「車の追突事故など日常茶飯事だろう、よく俺とわかったな」
「手島組関連の案件を父がよく扱っているので、その関係で小耳に挟んだんです」
「そうか、だが、うちの顧問弁護士がもう動いている。同期の小田だ」
「小田さん、バリバリご活躍だと、お聞きしています」
撮影の合間に、そんなやり取りをしたあと、何かまたあったら声を掛けてください、と言い残して柏木は帰って行った。
凛とした佇まいは変わっていなかったし、日比野がもったいないと口にするのも頷ける。
頷けるが、良太に知れた日には、また痛くもない腹を探られるのが関の山だ。
どこかしらで良太の耳に入らないとも限らない。
くそ、あのガキ、俺に黙って千雪なんかとコソコソしやがって。
休憩が終わり、工藤は忌々し気に撮影が始まるのを見つめていた。
その頃、良太、千雪、辻の一行は一端千雪の家に落ち着いていた。
「こっちこんな寒かったか?」
リビングに集まってエアコンを入れたが、温まるまで逆にコートを着込んで辻がぼやいた。
「うちがボロやからなあ」
のんびり口にする千雪も良太もコートを羽織っている。
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