「あ、良太ちゃーん!」
南澤奈々が車から降りる良太を目ざとく見つけて大きく手を振った。
奈々は、数年前小林千雪原作の映画化第三弾制作の際、スポンサーとのタイアップで青山プロダクションが行った準ヒロイン役のオーディションに合格した、社内では珍しく何の問題も抱えていない存在といえる。
ただしまだ高校生の時親に内緒で受けたため、会社と主に父親との間でしばらく揉めたが、良太が根気よく説得に通い、今では若手の有望株に成長した。
「大いなる旅人」シリーズでは、主演の志村とともにレギュラーで出演している。
何も問題を抱えていないと言えば、小林千雪を追いかけて青山プロダクションに移籍した中川アスカだが、鬼の工藤をものともしないアスカの場合もはや別次元の存在だ。
「元気そうだね」
「うん。良太ちゃんが企画してくれた会社の慰労会のお陰だよ!」
可愛くて華奢なイメージだが、ずっとバレエをやっていて、弱音も吐かない頑張り屋だ。
「あ、千雪さんもご一緒だったんですか?」
良太の後からやってきた千雪を認めて、奈々は笑顔を見せた。
「このシリーズ、俺も好きやねん。いっぺん撮影見せてもらお思て」
「ええ? だったら、千雪さんも出たらいいのに!」
何のわだかまりもない奈々の発言に、千雪は苦笑する。
「俺、演技力ゼロやから、あかんわ」
「千雪さんなら、いるだけで存在感あると思うなあ」
良太はそんな二人のやり取りを聞きながら、あたりを見回して日比野や浅沼、それに匠と話し込んでいる工藤を見つけた。
不機嫌だろうと何だろうと一応一声かけないとな。
良太が工藤の方へ歩み寄ろうとしたその時、「良太さーん」と明るい声がした。
ニコニコと森村が駆けてくる。
「お久しぶりです! 小林先生も」
「森村くん、お久しぶりです」
人懐こそうな顔はとてもあの冷酷無比な波多野の弟子とは思えない。
「ちょうどよかった、そろそろお昼だよね? お弁当、一緒に配ってくれるかな」
「Copy!」
「お弁当、楽しみ!」
奈々もはしゃぐ。
「あそこで怖そうなお兄さんが車にもたれてるよね、あの車に積んであるんで一緒に来てくれる?」
「ピッカピカのBMWだ!」
腕組みした辻の車を見ると、森村は子供のように表情が変わる。
「すみませんお待たせして、辻さん、お弁当降ろして配ります」
「おう」
辻はバッゲージスペースからいくつかに分けてある紙袋を降ろす。
「あ、これ、辻さんの文です」
「ええの? ほな、遠慮のう」
辻は強面を緩めて、良太が袋から取り出した松花堂弁当を受け取った。
「ご実家に帰られるんですよね? お昼召し上がってから行かれるんなら、千雪さんとかと一緒に向こうで」
「せやな」
千雪は良太より先に工藤と話している。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
