「千雪さん、一応、原作とドラマ絡みで来たことになってるし、ぐるっと回ってみますか」
良太の提案に千雪は頷いた。
「せやな」
「ほな、俺は実家行っとくし、迎えの時間わかったら連絡せい」
辻はそう言って車へと向かった。
「あ、誠」
千雪は良太と歩きかけて、踵を返すと辻に追いついた。
「あんな、これほんまにこそっと、絶対周りに気づかれんように」
「何やね、えらい警戒しよるな」
すると千雪は辻の耳元で囁いた。
「フーン、河原町やな。わかった、まかせとけ」
辻はするとうんうんと頷いた。
「何かわかったら俺にだけ知らせてくれ」
「おう」
辻の車が出ていくと、千雪は良太のところに戻った。
「夜はどないする? 辻は俺らに任せる言うとった」
「ああ、そう、ですね」
良太は何となく歯切れが悪くなる。
ちらっと撮影陣を振り返ると、工藤と日比野が難しい顔で何やら話し込んでいるのが見えた。
夜は、また撮影陣みんなでどこかへ繰り出すのだろうと思うのだが、せっかくなら一緒に居たい。
「もし、みんなでどこか行くんなら、辻さんも一緒に混じりましょうよ」
「そやな、良太、工藤さんと一緒におりたいもんな」
言い当てられて良太は、うっと言葉に詰まる。
「どうせなら、今晩、ホテル泊ったらええやん」
「いえ、そういうつもりはないので、千雪さんとこにお願いします!」
ムキになって良太は宣言した。
「ムリせんでもええで?」
「してませんから」
苔むした階段を上がりながら、良太は鬱蒼とした丈高い樹々を見上げた。
「そういえば、さっき、面われてないとか言うたけど、割れてたな、妙な勘違いで」
千雪が言う妙な勘違いで、が何のことだか良太はハッと思い出した。
以前、千雪が工藤の『女』と間違われて襲われたことがあった。
その時は工藤も良太もいたが、まるで映画のヒーローか何かのように、襲ってきた半グレ集団を一人で蹴散らしたのが波多野だった。
初めて良太が波多野に会った時のことだ。
「うーん、そうなると、どっちかの組のモンか或いは両方の組のモンに俺の面が割れてるいうことになるか」
千雪は軽く口にする。
「だから殴り込みはやめてくださいって」
良太は、はあ、とため息をついた。
「俺がそないなことすると思うのか?」
「はい、十分やりそうだからやめてください」
森村でなくても気が気ではない。
「俺を何やと思うてんね。ちょっと受付に声かけるくらい」
案の定なことを千雪流はやりそうだから怖い。
「イコール殴り込みって方程式が成り立ちます」
良太はきっぱり言った。
「何、理系みたいなこと言うてんね」
千雪は口を尖らせる。
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