しばらく良太は千雪と撮影を見ていたが、次は平安時代の安倍晴明に扮した匠の動きの美しさが際立つシーンだった。
思わず良太はたくさんの撮影クルーに取り囲まれて撮影されているにもかかわらず、妖艶な晴明の姿に見入ってしまった。
「ほんまにこの映画の世界があるんなら、俺もいっぺん入って行って晴明はんに逢うてみたいわ」
千雪がぼそっと呟いた。
「千雪さんならどのシーンに出ても文句は言わないんじゃないですか? いよいよ俳優やります?」
「アホか。俺に演技がでけるわけがない」
「俺だって映画じゃないけどちょっと出しましたよ」
「お前はまあ、素質あるんやろ? あの脚本家のおっちゃんに見込まれとるらしいやないか」
おっちゃんて………。
「やめてくださいよ。そのおっちゃんの勘違いですよ」
ぐだぐだとどうでもいいことで言い合っていたその時、千雪の携帯がコートのポケットで震えた。
「おう、せやな、一旦戻ろ思う。ん? ………へえ、そうなん。わかった、後で詳しく」
「辻さん? 何かわかったんですか?」
千雪が電話を切ると、良太はすかさず聞いた。
「いや、わかったって程でもない。とりあえず、夜、宴会一緒させてもらうとして、いっぺんうち戻ってからにしよ?」
「ああ、はい」
日比野監督のところへ行って、良太が夜の予定を聞くと、以前も使ったことのある『鞍馬』という居酒屋に集合とのことだった。
やがて辻が二人を迎えに来たので、一旦帰って七時に合流すると告げて、千雪の家へと車で向かった。
「はあ、何か、やっぱ実家は肩こるわ~」
良太がコーヒーを入れにキッチンに立つと、辻がソファにゴロンと転がった。
「不詳の息子の帰還やからやろ?」
千雪は笑う。
「はあ………。ほんま、正月避けて正解や。兄貴の一家まで来とってみ、説教たらたらやで」
「今、姉さんが跡継がはったんやて?」
「跡継ぐいうても、ちっぽけな土木会社やで? ほんでも、姉貴には頭上がらんわな。不詳の息子としては」
辻は苦笑する。
「兄貴はエリートやったもんな」
「せや、大阪で一流企業の出世頭やから。ってより、俺もここ泊ってええ? 親父やオフクロに文句言われっぱなしやしな。せっかく店預からせてもろて、社長やっとるて報告したんやで?」
「ええけど。でもオヤジさんら、実際は肩の荷降ろしとるんちゃう? まがりなりにも一国一城の主になったんやから」
辻の家のことは色々な噂で千雪も知っていたが、高校時代は族で大きくなり過ぎた息子のことを持て余していたような話だった。
「それよか、さっきの、お前の言うた通りやで。あと、あそこ色々問題があるらしいねん」
「そうなん? どういうことや?」
コソコソ話をしているところへ、良太がコーヒーをトレーに乗せて持ってきたので口を噤んだ。
「おう、すまんな」
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
