「白石さんたち、こっちに来られるんですか?」
猫の手の面々はそれぞれに散って、バイトやら派遣という形で調査対象を見張っていた。
「いや、今まで通りでええて。その方が動きやすいらしい」
コーヒーを一口飲んで辻が答えた。
「せやけど、手島、何かきな臭い話があって」
辻の言葉に良太と千雪は顔を上げた。
「手島建設て、北区の小山東大野町に一見地味に自社ビルあるんやが、そこの社員らしき女が貴船神社あたりをうろついてたて」
「ふーん? 今日の話? 向こうも探り入れてるいうわけやな」
辻の話を聞くと、千雪はしばし物思いしていたが、「今夜、名探偵登場、といってみよか」と言う。
「へ?」
怪訝な顔で良太は千雪を見た。
「妙なところで妙な面割れしとるわけやろ? やから」
「それやったら、俺も今夜ワトソン誕生や」
良太は今度は辻を振り返る。
「は?」
宣言通り、夕方頃、買い物から戻ってきたと思うと、粋なホスト的な雰囲気だった辻が、口髭に眼鏡、そしてジープキャップ、地味目な紺のセーターに地味目なジャケットで、曰くオッサン風ワトソンが出来上がった。
長めの髪は後ろできっちり結わえるしかないとしても、元族のリーダーという気配はない。
半分は面白がっているのだろうが、目が笑っていない。
千雪もいつもの黒縁メガネは持参してきたらしく、上下地味目のスーツを着込んで、名探偵の顔になった。
「何か、やらかしてくれる気がするんや」
「え、怖いこと言わないでくださいよ」
良太は千雪の言葉に眉を顰めた。
「お前らのラインに、社員の女と若いもんの顔送ったで」
「え」
携帯を取り出して良太は辻が送った数枚の画像を見た。
「女子社員、てより夜のオネエチャンてゆうた方がピンとくるやろ」
一応会社の制服を着ているのだが、茶髪はどこぞのアイドルじみた雰囲気、シャツからは胸の谷間が見えそうで、スカートもかなり短い。
若いもん、というのもスーツは来ているが、メッシュな茶髪と派手なスーツにネクタイ、靴に至るまで仕事用というより遊び感覚だ。
服や見た目じゃない、とは千雪からとくと学ばされている良太だが、表情や目つきからも彼らはこれで仕事ができるのかと老婆心で考えてしまう。
「俺、今日はノンアルにするんで、運転します」
千雪の家を出ると、良太が宣言して運転席に座る。
「うーん、ほな運転は良太に任せるけど、俺も今夜はノンアルでええわ」
辻が言った。
「俺も、飲まんようにしとく」
千雪までが追随する。
「え、ちょと、ホントに今夜なんかあるみたいじゃないですか? やだな、もう」
ハンドルを切りながら良太は助手席の千雪をチラ見する。
「加藤情報やと、この川岸いう女、仕事は事務やのうて昼間っから客とホテルに出向らしいで」
辻が携帯を覗き込みながら付け加えた。
「そら法律に触れるやろ、手島に教えたらんとあかんわ」
千雪が茶化す。
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