「例の会社員ですね」
良太は冷静な声で男女を確認した。
「俺はとにかく監督のところに行きますが」
千雪を振り返った良太は「何かあったら知らせてください」と小声で言うと奈々の方へ歩み寄った。
奈々と谷川はアダチスタジオの牧らとは長い撮影生活で、すっかり仲良くなったらしく、さらにドリームエージェンシーの三木原澪もいれば賑やかだったようだが、澪の撮影分は終わっているので、今回の撮影には同行していない。
「イエーイ!」
奈々を挟んで牧や谷川が一緒に携帯に収まっている。
「俺、撮りましょうか?」
良太が言うと、奈々が、「え、良太ちゃんも一緒に入って!」と良太の腕を引っ張るので、谷川が「俺が撮ります」と携帯を構える。
いきなりの状況に、俄かづくりの笑顔を向けた良太だが、すぐ近くで工藤と日比野、それに浅沼は、ここでも相変わらず顔を突き合わせて話し込んでいた。
ふと目線をあげると、ちょうど志村と小杉、その向かいに座る千雪と辻の背中が見えた。
と、良太はさらに志村の後ろのテーブルに座る手島建設の女子社員の顔が後ろを向いているのに気づいた。
やっぱ、何か企んでるのか?
気になりつつ、奈々の隣に座ったところへ、ちょうど左隣りが空いたと思ったら匠がやって来て座った。
「何か、やるつもりだ」
匠は良太の耳元で囁いた。
良太は匠にグラスを渡して、ビールを注ぎながら目は女子社員に向けている。
「って、一体何を………」
「誠がさっきからしっかり動画撮ってる」
辻は携帯をいじっている振りをして、女子社員を映しているらしい。
それから十五、六分も経った頃だろうか。
「きゃああっ!」
悲鳴が上がったのは志村の後ろあたりだ。
何ごとかと半分酔っぱらった頭を皆が一斉に悲鳴の方へ向けた。
「この人、セクハラ! 胸とか触ってきて!」
女子社員のシャツの前ボタンが必要以上に外れていて、今にも胸が見えそうになっている。
そしてその女子社員が指をさしているのは、この映画の座長である志村嘉人だ。
「おい、このガキャあ、うちの女の子に何してくれんね!」
隣にいた茶髪社員が志村の胸倉を掴んで恫喝した。
今にも殴ろうとしたその腕を掴んだのは、咄嗟に立ち上がった辻だ。
「放せや! このクソジジイ!」
喚く茶髪が腕を引くまで、辻は動かない。
「乱暴はあきまへんで」
「すっこんでろ! ジジイが!」
やっと茶髪が腕を引いたので、辻も離してやった。
良太はすぐさま飛んで行った。
「失礼ですが、何があったんですか? お嬢さん」
冷静な口調で良太は目元のほくろも必要以上に婀娜っぽい女子社員に声をかけた。
「やから、この人! あたしの胸に手ぇ入れて触った、言うてるんよ!」
女子社員は良太を睨み付けて金切り声を上げた。
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