「可愛くない子だね! 可愛い顔して」
今度は吐き捨てるように魔女がのたまった。
「ネットの動画を見せられて、おやと思ったのよ。何ごとにも動じないはずの高広が尋常じゃない形相だったからね、倒れてる部下を抱きかかえて。一体何ごとかって」
波多野が言っていたように、工藤がSNS上に現れたのはまずかったのだ。
こうしてやはりその筋の人間も一目で只者ではないと思わせる威圧感を工藤から感じたに違いない。
だが、この人はひょっとして鴻池と似たような感情を抱いたのかも知れない。
どうして工藤ともあろうものが、こんな俺みたいなヤツのためにそんな危ないマネをするんだ、何で傍に置いておくのだと。
「君は工藤の抱えている爆弾に等しい。以後、こういう考えなしのマネは控えることだな」
そんな波多野の言葉も良太の脳裏に蘇る。
「そうそう、高広の身代わりに刺されたことがあるんだって? 坊や」
今度は坊やよばわりか。
「フン、なかなか骨のある坊やじゃない。今時、舎弟どもにだって、そこまで気骨のあるヤツなんかいやしない」
「あれは俺が甘かったせいですよ。説得できるかなんて思ったのが運の尽きで」
良太はあくまでも穏やかに言った。
すると多佳子はフン、と鼻で笑う。
こういう人を見下したようなとこ、やっぱDNAじゃん。
「高広が坊やに借りを作ったのは確かね。にしたって、あんな必死な顔はないわね。坊やはよほど大事な舎弟、あら、ごめんなさい、部下、なのね?」
何だか含みのある言い方だと、良太は眉を顰めた。
まさか、この魔女オバサン、俺らの関係まで知ってるとか?
八十を過ぎてるって話だけど、平造さんよりよほどシャキシャキしてみえるじゃん。
「さあ、俺の存在が工藤さんの邪魔になるってのなら、いつでも消えるつもりはあるんで。あ、でもあなたに言われたからってんじゃ、ぜんっぜんないですけど」
悪いけど俺は人に言われて工藤と別れるとか、そんな気さらっさらないからな。
工藤がどんな横暴なオヤジだろうが、やっぱ工藤なしで生きるとか、考えられないし。
もし別れるっていう時は、工藤のためには俺がそうしなきゃならないって判断した時だ。
すると多佳子は高らかに声を上げて笑う。
怪訝な目で良太はそんな多佳子を見つめながら、今何時だろうと思う。
せっかく工藤が早めに帰ってきたっていうのに、俺はとっとと帰りたいんだよっ!
「いいじゃないの、坊や、その心意気。気に入ったわ」
何だよ、この人、いったい何が言いたいんだよっ!
「そうですか。とりあえず、もう帰ります。これ以上、俺があなたといることが万が一表ざたになったりしたら、工藤さんにとってメチャマイナスに働くことになる」
良太は語気を強めて言った。
「フン、目くじら立てなくても大丈夫。今日は中山多佳子は京都あたりに物見遊山に出かけていることになっているから。影武者になってくれる腹心くらいいるのよ」
「へえ。もし狙われても偽物が犠牲になるだけってことですか」
ちょっと嫌味を込めて良太は言った。
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